補完性とデザイン決定

補完性とデザイン決定

補完性とデザイン決定

三つの経済性(復習)
----------
 企業の事業戦略として「経済性(コスト逓減)」がある。

 

「経済性」には

 

1)「規模の経済性」

 

 大量生産・大量流通・大量販売など、大規模に事業を展開するこ
とによって限界費用を逓減することができる(もちろんある範囲の
間においてであるが)。これを「規模の経済性」という。

 

2)「範囲の経済性」

 

 ある特定の商品のために特化された部品では規模の経済性は見込
めない、、、つまりそこまでその商品はたくさん売れないので、大
量生産の効果がでない、、、そういう場合でも、その部品が他の商
品にも応用できるならば規模の経済性が期待でき、安く上げられる。

 

 応用範囲がひろいことによって共通部品(あるいは共通技術)の
規模の経済性が生じることがある。これを「範囲の経済性」という。
(例・カシオの電卓がたくさん売れたので、デジタル腕時計にも液
晶パネルを安く使えた)

 

3)「企業のコア・コンピテンス」

 

 軍事産業やコンピュータ業界や電化製品業界などのダイナミック
なイノベーションがある産業では、たとえあまり売れなくても新製
品を作り市場に投入する。

 

 それはそれを開発するスタッフやその他のスタッフの習熟度合い
を高いレベルに維持するためで、それは一から事業を行う場合と比
べて明らかに「経済性」があるからである。

 

 このような継続した開発によって企業が保持しているこの種の
「規模の経済性」を特に「企業のコア・コンピテンス」という。

 

 なぜ「コア(核)」というかといえば、たとえばパソコン開発に
おける開発技術はプリンタやモデム、デイスプレイ、OS、、、など
の製品に共通する「コア技術」が必要であるからである。

 

 

----------
■補完性・補完的
----------
さて「範囲の経済性」の話は「補完性」の話につながっていく。
前回のカシオ計算機の話を続けよう。

 

カシオ計算機はデジタル・ウオッチという新製品を開発するに当
たり、時刻表示に消費電力の少ない液晶を使うことを考えた。

 

 腕時計というのは日常使う商品だから、消費電力の大きなパネル
では困る。

 

 毎月のように電池を入れ替えねばならなくて、電池を入れ替える
のを忘れたらすぐ止まっている、、、では、返品の嵐である。

 

 だからなるべく省電力に設計しなくてはならず、そのために液晶
パネルの利用が必要であったのだが、当時(1980年前後)はまだ液
晶部品は高価なモノであったのだ。

 

 しかもデジタル・ウオッチは革新的な商品で、一体いくらでいく
つくらい売れるかも良くわからない。

 

 規模の経済性がある場合、生産計画は需要予測に従って立てるし
かないのだが、それが良くわからないのでなかなか生産に踏み切れ
なかった。

 

 だが当時の売れ筋商品であった電卓にも、液晶パネルを使おうと
いう機運が高まってきた。

 

 売れ筋商品の電卓なら、需要予測が可能である。

 

 だからカシオは「電卓と腕時計」の両方に液晶パネルを使うこと
とし、液晶パネルの大量生産に踏み切った。

 

たくさん売れる電卓に加えてデジタル・ウオッチにもパネルが利
用できるという「範囲の経済性」が見込めたから、液晶パネルの限
界費用を下げることができ、お陰でデジタルウォッチも安く市場に
投入できるようになったのだ。

 

このような、片方の存在がもう一方の存在によってより高められ
るような関係を特に「補完的」であるという。

 

--------------------------------------
※「補完的(コンプリメンタリー)の定義
--------------------------------------
一群の活動が、どの活動であれその一つの活動水準を高めた場合、
他の各活動の限界収益が高まる(あるいは少なくとも低下しない)
場合、この一群の活動は相互に「補完的」であるという。

 

例えば習熟など何らかの規模の経済性によってある部品生産の限
界費用が生産の増加とともに低下する場合、この部品を用いる様々
な生産物の生産活動は補完的である。
--------------------------------------

 

 さて補完性によって様々な活動の関係が予測可能になる(!)。

 

というのも補完的なある活動の活動水準を高めると、それと相互
に補完的な活動の収益は上がり、一群の補完的な活動の水準は同時
に高まると予測されるからである。

 

この予測可能性がデザイン属性の第1の特徴であって、強い意味
で補完的な一群の活動は、そうしていつもデザイン属性を伴うので
ある!

 

 だから何と何が補完的であって、何と何が独立しているかという
事については熟知しておかねばならない。

 

 

----------
■補完性・イノベーション属性とコーディネーション
----------
 生産に対し部門や部品に補完性がある場合には、企業戦略に最適
な組み合わせを考えねばならない。

 

 だがしかしある生産に対して最適な組み合わせが、ベストである
とは限らない。

 

たとえば20世紀初頭、フォード社はT型フォード生産という少品
種大量生産によって大成功を収めた。

 

 エンジンやシャーシを共通化し、範囲の経済性によって自動車の
限界生産費用を引き下げることに成功したわけである。

 

 しかし確かにその組み合わせは成功したが、フォード社はその後
ゼネラルモータースのスローンの戦略(高級車・中級車・低価格車
という消費者の収入層に応じた車の製造・販売)や、トヨタの「ジ
ャスト・イン・タイム(カンバン方式)を用いた多品種少量生産」
という生産技術によって追い抜かれることとなった。

 

 これは生産技術が進んだために、範囲の経済性が様々な形で利用
できるようになったせいであろう。

 

少品種大量生産(T型フォード)と、多品種少量生産(トヨタ)
の間には、実は二つの変数しか決定要素がなく、それは

 

・何品種商品を作るか
・どのような順番でそれを生産するか(バッチ規模)

 

ということなのだが、この組み合わせが非常に難しい。

 

「バッチ規模」とは、あるラインを使って複数の部品なり製品を
生産する場合に、Aという部品をいくつ作ってからBという部品の
生産に移るかという各部品の生産規模(生産計画)のことなのだが、
生産品種数が増えると、かなりのコーディネーションを必要として
しまうのだ!

 

 もちろん生産する品種数を少なくすれば問題は簡単だが、しかし
共産主義経済やセーの法則じゃあるまいし、作れば売れるという訳
ではない。

 

 何が売れるかは市場動向や顧客の選考などに大きく左右されるか
ら、誰もどの組み合わせが最適であるかという問題には答えが出せ
ない。

 

生産管理者は確かに生産の限界費用を下げる組み合わせは知って
いるが、しかしそれが販売と整合性をもっているとは限らない。

 

販売管理者は市場動向や顧客の選好には敏感であるが、それが果
たして適切な価格と数量で供給でき限界費用をさげられるかはわか
らない。

 

だから変数がたった二つしかないのにも関わらず、最適な組み合
わせを見出すための情報が内部になく、困難なのである。

 

このように補完性が存在する場合の全体的な戦略とは、イノベー
ション属性を持ったデザイン決定である場合が多い。

 

たった二つの変数しか含まないのにも関わらず、補完性がコーデ
ィネーションの失敗を招くのである。

 

 だから経営というのは計算ができず、難しいのよね。

 

 

<結論>
 そういうわけで経営者は次の三つの事について考え、組織を運営
していかなければならない。

 

 その三つとは、

 

1) デザイン変数の決定と伝達。
2) 情報伝達通路のデザイン
3) イノベーションに対する対応(新しい戦略デザインの決定)

 

である。

 

(第二部終わり。集権化と分権化の話は省略しました)

 

 

NEXT:動機付けの重要性と契約の不完備性

スポンサードリンク

このエントリーをはてなブックマークに追加