内部労働市場のまとめ

内部労働市場のまとめ

内部労働市場のまとめ

内部労働市場の理論
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 アダムスミス以来の労働市場理論は、短期雇用や季節労働者の雇
用を説明するにはもっともな理論であった.

 

 短期的雇用や季節労働というのは「基本的に大したトレーニング
を必要としない」。だから新しい労働者を雇うのもクビにするのも
雇い主からみるとさして問題はなかった。

 

 そこには常に労働者を雇いたい雇い主と、明日の仕事を探してい
る労働者が無数におり、だからこそそういう労働市場理論が成立し
十分説得力を持ったのだ。

 

 だが現代のように企業活動に「企業特殊なスキル」や「産業独特
の能力」が必要な時代においては、そのような外部的な労働市場の
他に企業内部にも別の労働市場、すなわち「内部労働市場」が成立
する。

 

 組織内の「内部労働市場の研究は比較的最近に始まったものであ
る。

 

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■長期雇用と限られたエントリーポート
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 内部労働市場が生じる原因であり、内部労働市場が生じる組織の
特徴の第一は「長期雇用」である。

 

 現代企業の多くは長期雇用を前提とする。というのも現代の企業
活動は単純労働ではなく、熟練したスキルを必要としているからで
ある。

 

 そしてまた企業はその企業や狭い産業内でしか役に立たないよう
な「企業特殊的な能力」を必要としている。

 

 どこの業界でも通用するようなスキルや能力なら、金と時間さえ
与えれば従業員に習得させるのにさほど困難はない。

 

 ところが特定の企業や産業内でしか通用しないようなスキルや技
術は、長期的な雇用が約束されないなら従業員に習得させることが
難しい。

 

 だから長期雇用を暗黙の契約として、企業や組織は従業員に対し
「企業特殊的な人的資産形成」つまり、その企業内では役立つが他
の産業ではなんの役にも立たないような技術の習得を勧めることに
なるわけである。

 

 そして労使ともに長期雇用を前提とするなら企業は限られた資源
を将来のために比較的安心して社員の教育に振り向けることができ
るようになる。
 一方従業員側もそういう企業特殊的技能の修得に熱心になる。

 

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■仕事に付与された給与(+わずかな業績給)
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 企業は長期雇用を前提として新入社員を雇い、それを下位業務に
就けることによってその能力を見極める。

 

 これを「スクリーニング」と呼ぶが、そうしてその働き具合によ
って有能な社員を昇進させ、昇給させるわけである。

 

 内部労働市場が生じる組織では、仕事はヒエラルキー構造になっ
ている場合が多く、給与や報酬は仕事(役職)に付与されたものと
なっているのである。

 

 これまで何度も述べたように、業績に対してそれ相応の報酬を与
えるというインセンティブ報酬方式は、ハッキリと業績が測定でき
る分野においてのみ効果を上げる。そうでない場合は効果が薄い。

 

 たとえばセールスマンだけの販社であれば、売り上げに対して歩
合を支払うというような業績給方式も成り立つが、モノを仕入れて
きて売るだけの商売でやっていけるほど現代は甘くない。

 

 そしてまた均等報酬原理から、売り上げに直接関係しないが企業
や組織の将来の評判に影響を及ぼすような仕事にも十分なインセン
ティブを与え続けなければならないが、こうした場合には役職や仕
事と切り離して業績給のみで内部労働市場を動かすことは難しい。

 

 そこで高い判断能力が必要な仕事には高い報酬を、低責任の仕事
には低報酬を割り当て、それに適した人材配置を行うという方法で
業績給の代わりとするわけである。

 

 この方式は、つまらない仕事だからといって怠ける人間には昇格
も昇給もさせないというやり方であり、だからこそ従業員のモラル
ハザードを減らし勤労インセンティブを高めることができる。

 

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■内部昇進による空席の補充(トーナメント)
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 昇進はトーナメントになっていて、言ってみれば「イス取りゲー
ム」のようになっている。

 

 業績を上げた者を全て昇進させると言う方法では、業績を上げや
すい部門とそうでない部門とに与えられるインセンティブに温度差
が生じてしまう。

 

 つまりそう言う方式では、花形部門では簡単に業績が上がるので
昇進しやすくなるが、撤退部門であるとか非採算部門ではそういう
量的な業績を上げにくいから業績の上げにくい部門の従業員に対し
てインセンティブを与えられなくなってしまうのである。

 

 これは原理的には「均等報酬原理」と同様であり、だからこそ昇
進においては「仕事の質」も考慮されるトーナメント方式が採用さ
れるということになる。

 

 そしてまた業績給方式であると、経営者は社員の業績を低く評価
して支払う報酬を抑えようとする誘惑に負けやすい。

 

 たとえば社員の業績を低く評価して報酬をケチると、確かに一時
期は会社の業績はよく見えるようになるが、それをすると有能な社
員の準レント(転職した場合に失う利益)が低くなり、必要な人材
が流出していく大きなインセンティブを生み出してしまう。

 

 それは企業特殊的なスキルを必要とする企業にとって大きな損失
であるから、非常にまずい。だから実績給方式で報酬を支払うとい
うのはあまり妥当な方法にはならないのである。

 

 だがトーナメント方式なら、業績があれば昇進させねばならない
という決まりであり、少なくとも決まった人数だけの昇進(と昇給)
は行わねばならないから、その誘惑を防ぐことが可能になる。

 

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■テニュアとアップ・オア・アウト・ルール
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 もちろん昇進トーナメント方式にも様々な欠点がある。
 というのもそれは「順序」で決定されるモノだから、昇進のイス
が一つしかなければ業績を上げたモノが複数いても昇進させられな
い。

 

 そして業績を殆ど上げていなくても、ほかに昇進させる者がいな
ければ低業績であってもその者を昇進させるしかなくなる。

 

 これは言ってみれば「お役所仕事」であり、従業員が組織からレ
ントを獲得しようとすることであるから、大きな非効率を生む。

 

 そしてまた昇進を判断するのは一塊りの人間であるから、そこに
は昇進をめぐる「インフルエンス活動」が生じ、大きなインフルエ
ンス・コストも発生してしまう。

 

 また昇進トーナメントでは、下位の者が昇進インセンティブによ
ってもらっている賃金分以上に働き、その賃金以上に働いた分のレ
ントを組織や上位の者に支払う仕組みになっている場合が多いが、
そうなると、従業員が昇進を諦めるような状況では確実に志気が落
ちるということになってしまう。

 

 下位の者は将来上位の職に就き下位の者からレントを受け取るこ
とを夢見て組織に対して忠誠を誓い、昇進のための努力を積むこと
になる、、というのが昇進トーナメントの要諦であるから、
「昇進できなさそう」
という雰囲気が生じたり、
「昇進なんかしなくてもいいや」
という人間が増えてしまうと、組織はその従業員から余分なレント
の受け取りができなくなってしまうのである。 

 

 だから組織はなんとかそのようなインセンティブを従業員に与え、
レントを提供させるために様々な仕組みを作る。

 

 それが終身雇用保障制度である「テニュア」と、昇進できなかっ
た者は解雇するという「アップ・オア・アウト・ルール」である。

 

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■限られたエントリーポート
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 従業員の業績は何度も言うが、完全に観察したり測定したりする
ことは不可能である。

 

 だから業績給によるインセンティブよりも、昇進トーナメントと
言う形でそれぞれの仕事にそれぞれの賃金を対応させ、業績を上げ
た者を高い賃金に対応した役職に就けるという形で企業は職務配置
を行うわけである。

 

 このために企業は入職口を狭く制限する。

 

 たくさん雇ってじっくり見て有能な人間だけ昇格させ、後はクビ
にするというのは、人件費も膨大になるし無駄も多くなる。

 

 ただし昇進のみでは全ての従業員に勤労のインセンティブを与え
ることはできないから、そこで企業の業績に応じた「ボーナス」が
支給されることになる(業績インセンティブ、均等報酬原理)。

 

 これは一見して無意味な支出のように見えるが、しかしこれは企
業が従業員から得た余分なレントを分配する意味合いもあるから、
このレントを巡ってのインフルエンス活動やインフルエンス・コス
トの発生を押さえる働きも期待できる。

 

 だがしかし、限られたエントリー・ポート(入職口)から社員を
雇用し、業績を上げた者を昇進させていくというシステムの政策は、
企業の業績の足かせとなる場合もある。

 

 それは企業が全く新しい分野に進出したり、方針を大転換したり
する場合である。

 

 新しい分野というのは今までの常識をそのまま持ち込めない場合
が多い。

 

 それは実際コンピュータ技術やゲーム産業、あるいはCGメーカ
ーなどといった産業に従事する人間の平均年齢が非常に低いことか
らもよく分かる。

 

 そう言う場合、このような時間をかけて社員を昇進させるという
方法は全く役に立たない。

 

 そうやって昇進させた社員はたいてい歳を取りすぎているし、新
業務に関しても知識や判断力を持たない場合が多い。

 

 だが企業がその新事業に力を入れそれを軸に活動を行おうとする
ならば、そのためのスタッフを外部から雇い入れて重要な地位に就
けねばならないことになる。

 

 たとえ内部から昇格させる場合でも、それに適した人間が現在も
高業績を上げているとは限らないから、以前の規準では「できの悪
い人間」を昇格させねばならないことになる。

 

 しかしそれはそれまでのムラ的な昇進政策を取っていたのを反故
にして、「横入り(よこはいり)」を許すことになるから、他の従
業員に対して信義違反となってしまう。

 

 客観的な基準によって昇進政策が行われるなら、企業の労働者も
納得できようが、主観的な昇進政策が行われるなら、これは「不完
全なコミットメント」になってしまう。

 

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■まとめのまとめ?
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 内部労働市場の特徴

 

・長期雇用
・限られたエントリーポート(入職口)
・内部昇進による空席の補充(トーナメント)
・仕事に付与された給与(+わずかな業績給)

 

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