限定合理性と分配の効率性

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限定合理性と分配の効率性

限定合理性

 

 人間は合理的な生き物である、、、という説は、あんまり納得のいく説ではない。

 

 ボクなどしょっちゅう「何であの時、あんな事をしたんだろう?」「何であの時、こうしなかったのだろう?」なんて後悔する。

 

 だから、自分が合理的に行動しているだなんて、お世辞にも言えない。

 

 なにしろこの正月も、久々にやったパチンコで大負けして、さらにそれを取り返そうとしてまた負けるというような大惨敗をしでかしたばかりなのである。

 

 だがしかし、そういう不合理な判断を下した時点では、それは確かにベストだかベターだかの判断をしたつもりだったのである。

 

 もちろん頭に血が上って判断能力が狂ったということもあった。

 

 近々金が要るという事情もあったので、負けすぎた金は取り返さねばならないと言う必要もあった。

 

 さらに周囲の他の者がジャンジャン出していたという様子から「もう少し続ければ自分の台も出るに違いない」とか「少し我慢すれば少しは取り返せるかも知れない」と判断するのに十分な情報もあった。

 

 けれども自分の台がそのまま打ち続けていて出るかどうかに関しては、予知できなかった。

 

 こういう風に、人間が正しい判断を下すために必要な情報を完全には得られず、たとえそれがあったとしても言葉などの伝達手段が不完全なものであるという事実を「限定合理性(バウンデド・ラショナリティ)」と呼ぶ。

 

 つまり人は全知全能の神々とは異なり「限定合理性」を持つために、結果的に合理的でない判断をするというのである。
結果の合理性と合理的であらんとする行動

 

 限定合理性を模式図で表すとこんな感じである。

 

「不完全な情報」×「不完全な伝達手段」×「(不完全な認識)」 =「合理的でない判断」 すなわち人間は将来起こるであろう事柄を予想するために十分な情報を持つことができず、また他人からそう言う情報を受け取ることも(言語の限界性から)難しい。

 

 そして限られた現在と過去の情報を、不完全な人間の認識力で分析するのだから、いくら「合理的に」物事を判断したとしても正しい妥当な答えを導き出すことは難しい。

 

 だがそうだからといって、人間が合理的であろうと努力していないわけではない。

 

 結果的に不合理な選択や意志の決定となってしまうことが起こっても、意識しているしていないにかかわらず、その時点の状況に置いて最良の選択をしていたはずなのだ。

 

 たとえば年輩者が若い頃を振り返って「若気の至り」などという。

 

 「若気の至り」とは、今より若い頃は知識もなく、観察力もなく、洞察力も劣っていたから合理的な判断ができなかったと悔やんでいるわけであり、若い時は考えが至らなかっただけの話であって、決してその時点で合理的に行動しなかったわけではない。

 

 病気で熱が出たり頭が痛かったり、睡眠不足や心身症で頭がボーっとしたり、試合や乱取りで普段練習してきた技や戦術が出せなかったり、、、という場合でも、総合的(全人格的)には健康保持や生命の危険回避などの本能的な行動が優先されただけで、恐らくその状況下で最も合理的な判断を下していたはずなのである。

 

 そういうわけである人間の行動が「合理的」であるかどうかは結果でしか判断することはできないが、「限定合理性」がある人間がその時点の状況で常に合理的な判断をして行動しているということは仮定することができる。
「平等」の非効率性

 

 人間は「限定合理性」のもとで自らの立場やニーズ・欲望・目的を判断し、それに基づいて自らの「効用」を最大化しようとする。

 

 そして個人の効用を向上させる要因が何であるかは、人によって様々であるとする。

 

 とすると、たとえ組織に属する全ての者に資源や利益を頭数で均等に配分したとしても不満が起こることになる。

 

 というのも明らかにそれよりもっとそれぞれの個人の効用(幸せ)を向上させる配分方法があるはずだからである。

 

 平等(均等)に全ての財やサービスを分配することは、実は非効率極まりないことなのかも知れない。

 

 たとえば休日と給料である。

 

 ある者は「休みより金が欲しい」という。

 

 休んだって何もすることはないし、それよりも休みなど返上して働きたいと言う。

 

 だが別のある者は「金より休みが欲しい」という。

 

 仕事をすれば疲れるし、家族と一緒にすごしたり趣味のためにもっと時間を割きたい。

 

金より休みが欲しい、、、と言う。

 

 ボクなどは貧乏人だから昔は「休みより金」のクチで、風邪くらいですぐにバイトを休む人間の神経がなかなか理解できなかった。

 

 欲しいモノもたくさんあったし、貧乏だったから大学に行くために衣食住に必要な全ての費用を稼ぐ必要があったから、そんなことはとんでもないことだと思って住み込みで新聞を配っていた頃も年に五日しか休みがなかったのにそれが当たり前だと思っていた(拙HP「貧乏人の正体」参照)。

 

 だが最近は逆に「金より休み」になってきた。

 

 なぜならそういう価値観は豊かではないし、自らの肉体を削ると言うことを自覚したからである。

 

 そしてさらに自分の肉体は裕福な人間より弱いことがわかってきたからである。

 

 だから最近はできるだけ休むことを心がけているが、しかしそうして世の中には正反対な価値観を持つ人間がいるのである。

 

 となると、全ての人に均等に休日と給料を割り当てることは、全体としてあまり幸せではない。

 

「金より休みが欲しい」人は「休みが少ない」と思うし、「休みより金が欲しい」という人は「もっと働きたい」と思って不満になる。

 

 つまりある人の効用関数は休みに対して係数が大きく、別の人の効用関数は収入に対する係数が大きいのである。

 

 だからこの時もし「金が欲しい人の休日」と「休日が欲しい人の給料」とを交換することができれば、双方の効用(幸せ)を増大させることができることになる。

 

 つまり均等に休日と給料を配分する場合より、それぞれの効用を増大させるように価値を交換する方が「効率的」であり、そして全体の効用(しあわせ)合計も大きくなる。

 

 それはまた「努力(勉強)」と「地位」という事に関しても同様で、世の中には「どんな苦労をしても、偉い人になりたい」という人間と「そんな努力(勉強)をしてまで高い地位に着きたくない」という人間がいる。

 

 一心不乱に勉強して学者になったり弁護士になったり、医者になったり研究者になったり、或いは大会社の社長や議員になったりしたいという欲望を持つ人間と、そんな努力するより適当に働いて適当に呑気に趣味や道楽に埋没したいという人間もいる。

 

 高い地位のために努力を惜しまない人間にとっては、割り当てられる同等の地位と権限は「努力に見合わない地位と権限」になるし、地位を得るために努力(勉強)などしたくない者にとっては、割り当てられた努力や勉強は苦痛でしかない。

 

 そうなると組織の全員に同水準の努力(勉強)を課し、同等の地位と同等の権限を与えることも、均等だが実は非効率(不幸せ)な割り当て方法と言うことになる。

 

 つまり人間一人一人の幸福感が異なることから、平等(均等)な配分は非効率で不幸せな配分になるわけである。
希少性とパレート最適

 

 分配できる資源が、それぞれの個人の効用(幸せ)を最大限に大きくできるだけ充分あれば問題はない。

 

しかしモノには限度がある。

 

 分配できる資源には上限があるし、また休日を給料と交換したい人間と給料を休日と交換したい人間がいつもいつも必ず同数居るわけではないから、分配と交換によって全ての人が自分の効用(幸せ)を最大限まで増大させることはできないのである。

 

 これを希少性の問題というが、希少性がある場合でもその中で全体の効用合計を局大化(最大ではないが局所的に最大化)することは可能である。

 

 すなわち配分に関わる者を全員集めて、とことんまで話し合って様々な配分方法を取り決め、そしてそれを遵守することを強制できればよい。

 

 たとえば休日と給料を交換するのであれば、休みたい者とより多くの給料が欲しい者とが話し合い、うまく休日当たりの受け渡し分を決めればよい。

 

 もちろん全員の給与合計を希望出勤日数の合計で割って、出勤日数に応じて給料を配分するというやり方も妥当であろう。

 

 そうすることによって、以前よりそれぞれの人間が自分の効用を増大させることができる。

 

 これを「効率性原理(エフィシェンシー・プリンシプル)」と呼ぶのだ。

 

 しかし、これを行った場合、少なくとも参加して配分に意見を述べた者の効用は増大し、全員の効用の合計は局大化できる。

 

 そしてさらに様々な分配や割り当て方法を取り決めた結果、もうそれ以上誰かの効用を増大させることができなくなった状態を特に「パレート最適」と呼ぶ(因みにパレートとは、イタリアの経済学者の名である)。

 

 パレート最適とは「他の誰かの効用を減らすことでしか自分の効用を向上させることのできない状態」として定義されるが、つまりもう他人の幸福を犠牲にするしか誰かの幸福を向上し得ないような配分状況である。

 

 日本国憲法の前文にもあるベンサムの「最大多数の最大幸福」とは、パレート最適のような配分方法であると現在のところ解釈されているが、そういう感じである。

 

 そしてパレート最適の状態を「効率的」と定義する。

 

 

 

今日のまとめ

 

「限定合理性」: 人間は全知全能の神々とは異なり、不完全な情報や不完全な伝達手段、そして不完全な認識能力しか持たないという性質を持つ。

 

 だからある人がある時点で合理的な判断を下したとしても、それが本当に合理的でない判断である場合は枚挙にいとまがない。

 

「平等分配の非効率性」: 人は限定合理性のなかで、それぞれの価値観(ニーズ・欲望・目的)に沿った幸福を追求する。

 

その幸福の度合いを効用関数で示すことにすれば、その効用値を最大化する方向で努力をするものと考えられるから「平等(均等)」な配分は「幸福(効用)」に関して非常に非効率な配分となる。

 

「効率性原理・エフィシェンシープリンシプル」: 分配に関わる者全てを集めて意見を聞き、資源や義務などの分配方法を取り決め、そしてそれを遵守するように強制できれば、少なくとも参加者の効用の合計は以前よりも大きくなる、、という原理。

 

「パレトー最適」あるいは「パレート最適」: 交渉を進め「他人の幸せを削ること無しに誰かの幸せをもう増やすことができないような状況」ができあがれば、それを特に「パレート最適」と言い、最も効率的な配分と割り当ての方法であると規定できる。

 

すなわち「最大多数の最大幸福」の達成である。

 

 今回の・・・「平等」が非効率で人々の幸福を最大化しないモノである、、、というのがミソやね。

 

 若者には若者の幸福観があり、年寄りには年寄りの幸福観がある。

 

そう言う風に人によって国によって、時代によって年齢によって幸福観が異なるという理解の上に立っているのが、最近の経済学(少なくともこの本)のボクの好きなところです。

 

 もちろん「効率性原理」が、話し合いに加わらない者の利益(外部性)を考えないで参加者の効用を最大化するモノだと言うことも忘れてはいけないけれど。

 

(み)NEXT:コーディネーションの重要性

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