所有と均等報酬原理

所有と均等報酬原理

所有と均等報酬原理

教員に対するインセンティブ契約の問題
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 初等・中等教育の改善を目的とした教員に対するインセンティブ
をどのようにすべきか、、、という問題がある。

 

 つまり生徒の学業成績を指標として何らかの報酬インセンティブ
を教員に与える場合、ペーパーテストの結果のみを指標として用い
るのは是か非かという議論である。

 

「インフォーマティブ原理」によれば、真の業績を反映しやすい指
標、つまり指標のばらつきが一番小さい(つまり分散が小さい)指
標を用いることが業績を判断するための一つの「コツ」であるとい
うことになっているから、ペーパーテストによる判断は妥当だとい
える。

 

 がそれでは教員がテスト問題を生徒に教えたり、あるいはペーパ
ーテストで判定し得ない生徒の成長(たとえばリーダーシップだと
かチャレンジ精神だとか公共福祉の精神とか)を阻害したりすると
いう問題が頻繁に起こるだろう。

 

 だから均等報酬原理に従えば、ペーパーテストに反映されないよ
うな類の教育に対してもインセンティブを与えなければならないこ
とになるのだが、こちらはさっきも言ったとおり、業績が判定しに
くいものである(判定誤差のばらつきがとんでもなく大きくなる)。

 

 だがしかし固定給であると問題教師やモラルハザードは排除でき
ないし、、、困った問題である。

 

 

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■インセンティブ強度βと均等報酬原理
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 自分の時間や肉体を含めた自分の持っている資産を投資して、そ
れを回収しその資産を今度は別の投資に回せるような状態の人間を
特に「資産所有者」と呼ぶことにしよう。

 

 で労働者の持つ資産つまり「労働力の価値」を、努力水準e1と確
率要素x1を用いて表してみると、A(e1)+x1 と表せる。

 

 ただしこれは「実際価値」で、雇用主の観察できる価値ではない。

 

 実際に労働者がどれだけ努力しているかなんて、身近にいる仕事
仲間くらいにしかわからないし、結果につながるまでのタイムラグ
(時間差)の問題もあるから、相当ヒトを見る目のある経営者でな
いとそれはわからない。

 

 だから雇用主は簡単に観察できる「産出価値」、つまり売り上げ
や利益などを示す値 e2+x2 を指標として、インセンティブを与えよ
うか、、、と考える。

 

 この方法で従業員に報酬を支払うとすると、その額は当然

 

 α+β(e2+x2)    α:固定額、β:インセンティブ強度

 

となるわけだが、一方均等報酬原理を考えると、企業は果たして従
業員に課すインセンティブ強度βを単純に正の値にしていいものか
どうかという問題が起こる。

 

 

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■資産所有と均等報酬原理
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 たとえばインセンティブを与えなくとも従業員が達成する努力水
準をe^とする。この場合の努力水準は、従業員がクビにならない程
度に働く水準になる。

 

 ここで会社が資産を所有している場合、従業員の確実同値額は

 

     α+βe2−(1/2)β^2・Var(x2)−C(e1+e2)

 

となるが、この式はβ≧0ならば従業員はe1=0という努力水準を
選ぶということを示している。

 

 つまりe1>0なら、従業員はC(e1)だけ損をすることになるから、
もし従業員が自分の時間や努力を大事に思うなら、仕事のために
本を読んだり勉強したり、あるいは休み時間や休日を返上したり
という努力はしない。つまりe1=0である。

 

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※注:
e1は目に見えない努力や結果にすぐ結びつかない可能性の高い努力
(掃除だとか日々の勉強だとか)
e2はすぐに結果につながるような努力。
ということだから、インセンティブ強度を強くするとe1タイプの努
力は丸々労働者の損になってしまい、労働者の努力e^の配分はe2に
ばかり配分され、e1には投入されなくなる。それは均等報酬原理に
反し、企業の評判を落とすようなことになる、、、ということ。
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 だからそう言う場合であれば産出量によるインセンティブを与え
ず(β=0)に、e^を会社の指示によってe1とe2に配分させる方が
良いことになる。(e^=e1+e2)

 

 一方労働者が資産を所有している場合には、確実同値額はリスク
プレミアムを差し引いて

 

    A(e1)+α+βe2−(1/2)r・Var(x1+βx2)−C(e1+e2)

 

となる。

 

 労働者が資産を所有しているというというのはつまり、所有者と
して行き届いた資産管理の成果を受け取ることができるので、そう
いう管理に対するインセンティブを持っていると言うことである。

 

 たとえばプロ野球やサッカーのプロ選手は、自分の肉体を資産と
して所有している。

 

 そう言う場合は肉体の管理を行うインセンティブが生じるから、
業績に対してインセンティブを与えても、努力e^を目に見えないe1
的努力に配分されるということである。 

 

 またIT技術者やバイオ技術者などは、その技能や知識自体が一
つの資産となるから、それを維持したり高めたりという努力e1は、
企業がインセンティブを与えなくても行われるということである。

 

 だから自前の資産を用いて労働を行う者や独立した請負業者には、
インセンティブ契約が大きな効果を上げることになる。

 

 ただそういった資産を労働者や請負業者が所有していると、企業
はより高い報酬と良い待遇を約束しなければ、すぐに逃げられてし
まう。

 

 社会で不足している技術を持つ技術者や上質の請負業者に対する
需要は大きく、より高い報酬を提示する企業が多ければなおさらで
ある。

 

 顧客管理を営業部員に任せているような場合も、顧客は営業部員
の「資産」となりうるから、たとえ業績が低めであったとしても十
分良い条件で安定的に雇用しなければ、顧客ごと丸々ライバル会社
に引き抜かれかねない。

 

 誰が資産を所有するべきかと言う問題はまた後で考えることにす
るが、インセンティブ契約というのは相当な「諸刃の剣」なのであ
る。

 

NEXT:異時点でのインセンティブ

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