契約、情報とインセンティブ記事一覧

 今回からは経営者や労働者に「やる気」を出させ、かつ、「組織に損害を与えない」ようにするための様々なシステムについての話です。 議論を単純化するためにここでは前提として「人間は、自分自身に利益になると認めた事しか行なわない」という仮定を置いています。そして「人間は互いの利益を認識し合い、互いの利益増大の為に行動の修正に合意するという協定がつまり「契約」で、他人に対して契約を遵守するように期待する」...

現実の人間は全知全能ではなく、完全に先を見通せるわけではない。どんな複雑な問題でも、正確にコストもかけずに即座に解けるわけでもなく、またお互いに自由で完璧な意志の疎通を図ることもできない。「人間は限定的にしか合理的でなく、またそれを自覚している」 従って人間は限られた範囲内でのみ、最善を尽くそうとし、合理的であろうとする。これを限定合理性という。限定合理性の下では、契約はコンプリート(完備)で...

用語の説明「投資(インヴェストメント)」: 将来に渡って便益やサービスのフローを生み出す可能性がある資金やその他の資源の費消である。「資産(アセット)」: 投資によって生み出されるであろうフロー全体。家屋や機会のような実物資産は何年もに渡って住宅サービスや製造サービスを生み出す。貯蓄性債権や金融資産、特許権や著作権なども「資産」である。「人的資産(ヒューマン・キャピタル)」: 教育投資に...

 契約当事者が、投資がサンク(下で解説)となった後に不利な条件を押しつけられたり、他所の行動による投資価値の下落を恐れるという問題を特に「ホールドアップ問題」と言う。 完備契約では、将来に起こる諸事情に対しての約束が完備されているのでホールドアップ問題は起こりようがないし、ホールドアップ問題が生じても代わりのサプライヤーがいくらでもいるような場合も、その時は他の者に乗り換えればいいだけだから大きな...

不完全なコミットメント問題 比較的簡単な契約ですら、いろいろな問題や争いを引き起こすことがある。 しかし不完全なコミットメント、たとえば労働者や取引相手に契約通りの条件で仕事をさせたり品質水準や納期を守らせることができない事が取引上大きなインパクトをあたえる。これは、「投資便益の発生が、長期間にわたる大規模で多額の投資を必要とする場合」すなわち「大金を投じて何ヶ月も何年もかけて準備をした後でないと...

売り手と買い手の二人の人間を考えてみる。売り手はある品物を1個持っていて、買い手はその品物が欲しい、、、、とする。売り手も買い手もその商品について「私的な情報」を持っている。たとえば売り手にとってその商品の価値は、2ドルかまたは0ドルであり、買い手にとっては1ドルか3ドルのいずれかであるというモデルを作ってみる。 そうすると、売り手は買い手が3ドル出すなら売る。1ドルしか出さないなら売らない。とい...

「逆選択」とは、契約前の情報の非対称から生まれるインセンティブ問題である。 この概念は保険会社の直面した問題から確立された。 たとえば医療保険に妊娠・出産に関するオプション契約(特約)を付けるとしたとしよう。 妊娠・出産は病気ではないから普通は保険金は支払われないことが多いのだ。 だが出産には様々な費用がかかることが多いから、そう言う事態になったときにもいくらかの保険金を支払えるように、特約として...

たとえば銀行のモデルを考える。世の中に二種類の借り手、すなわちAタイプとBタイプの借り手がいるとしよう。そして銀行はそのタイプを見分けられないものとしよう。このモデルでの両タイプの特徴はAタイプの借り手:100万$を借り入れて、確実に110万$を回収する。Bタイプの借り手:100万$を借り入れて、二分の一の確率で90万$かまたは130万$を回収する。とする。 さてこの時Aタイプの借り手の回収期待値...

 80年代末のバブル時代の日本の銀行は言ってみれば「金を勝手に無尽蔵に作って貸し出していた」わけである。 そしてさらにその金を使って日本国内のみならず世界中で土地を買いまくっていたわけだから、国際社会に与える影響は大きかった。 とんでもない逆選択が生じていて銀行の経営が不安定化していっているというのに、日本の銀行は際限なく「金を作り」そして世界の土地価格をどんどん引き上げた。しかしそんな勝手なこと...

 取引を行ったり契約を交わす前に「情報の非対称」が発生していると、どちらか一方は相手より不利な状態で取り引きしたり契約を交わしたりせざるを得ない。 たとえば「今、渋谷で大人気!」「大阪や神戸で密かなブーム!」なんて地方で怪しげな商品を並べても、渋谷や大阪の最新情報を持っていない消費者には、その情報が本当かどうかは分からない。 こういうような事が起こると、より詳しい情報を持っている人間はより乏しい情...

 何らかの取引を行おうという場合に、相手と自分の間に「情報の非対称」、つまりどちらか一方が取引に関して有利な知識や情報を持っているような状態があったとき、その非対称を解消しようという努力がよく行われる。 たとえば高学歴や役に立つ資格などの持ち主は、就職の際にそれを履歴書に書き込むことによって就職を有利にしようとする。 これは高学歴や資格と言ったモノが「働きますよ!」「能力がありますよ!」というシグ...

 企業や雇用主は、従業員に対して仕事に関する何らかの教育を行う。 倉庫業ならモノの並べ方・積み方などを最初に教育し、次にフォークリフトなどの運転や資格を取らせたりするだろう。 IT関連の企業なら、一般従業員には初級シスアド・開発部門の新入社員には基本情報技術者(旧第二種情報処理技術者)の資格が取れるようにカリキュラムを組んで教育を行うことだろう。 だがしかし、そういった人的資本に対する投資は、回収...