モラル・ハザードとインセンティブ契約

モラル・ハザードとインセンティブ契約

モラル・ハザードとインセンティブ契約

先週の復習
----------
 モラルハザード問題が発生するには三つの条件が必要である。

 

1)取引を行う双方に、利害の対立があること。
 (つまり一方の犠牲の上に他方の利益が生じるということ)

 

2)利害が異なる人間双方を、取引に至らせる理由があること。
 (つまりとにかく取引をせねばならない状況に陥っていること)

 

3)実際に契約が遵守すなわち守られているかを調べたり、あるい
 は遵守を強制させることが技術的・経済的に難しいこと。
 (検査したり監査することが難しかったり、大きな費用がかかる)

 

 さてモラルハザードに対する第一の処方は、モニタリングや検査
に金や人材などの資源を投入することである。

 

 たとえば労働者にはタイムレコーダによる記録を義務づけること
が多く、遅刻や早退に対しては減給や解雇などの処罰が課せられる。
もちろん逆に優れた行動に対し、報酬を与えることも多い。

 

 

------------------------------------------------------------

 

    モラル・ハザードとインセンティブ契約

 

------------------------------------------------------------
----------
■第2の処方箋「明示的なインセンティブ契約」
----------
 仕事に対する結果がはっきりと分かる場合には、その結果の良し
悪しに対して報酬を与えたり罰金を与えたりすることによって、仕
事の効率性を保つ大きなインセンティブを作り出すことができる。

 

 営業のような「取ってきた仕事の量がハッキリするような仕事」
なら、
「あいつは○千万円の仕事を取ってきて、○百万の利益をあげた」
なんて風に結果がハッキリ出るし、プロ野球選手のような勝敗がハ
ッキリするような仕事なら、アベレージや勝利に対する貢献度など、
比較的容易に数字を出すことができる。

 

 だがしかし、それでもインセンティブ契約というのを上手くやる
のは難しい。

 

 というのも、たとえば業績に応じて従業員に支払う賃金やボーナ
スが変動するような報酬契約を結ぼうと思っても、能力のある自信
満々な人間には有効なインセンティブとして働くが、それは普通一
般の従業員の目に「非常にリスキー」に映るからである。

 

 人々は自分の所得がそういうランダムな要因に依存することをあ
まり好まない。非常に「リスク・アバース(危険回避的)」なので
ある。

 

 人々は安くても確実に収入が得られる職場を求めるから、もし雇
用主がそういう業績給で従業員を雇用しようと思ったら、固定給の
場合より、より高い「分け前」を従業員に支払わねばならなくなる。

 

 つまり月給三十万円の固定給と、基礎給与が二十万円で業績給が
0〜二十万円の間で変動する給料体系があったとしたら、たいてい
の人間が前者の方を選ぶもんだから、雇用主側は基礎給与二十八万
円+0〜二十万円の業績給なんてふうな、殆ど従業員がリスクを負
わないような契約内容でなければ、インセンティブ契約が成立しな
いということになりかねない。

 

 それでは実質賃上げになり、経営者と労働者で利益をより多く山
分けするということになるので、会社のために金を出した株主にと
って、それは好業績時も利益を配当として受け取れないということ
を意味する(業績がよければそれは従業員のボーナスになってしま
うから)。

 

 そうやって経営者と従業員が利益を山分けする企業風土が確立す
ると、企業はいつしかなれ合い組織となり、屋台骨が崩れだす。

 

 これはもちろん株主に対する経営者と従業員のモラル・ハザード
であるから、そんな企業に投資したり融資したりする投資家や銀行
はだんだん減って行き、ある時突然資金繰りが悪化して「倒産」と
いうことになる。

 

 モラル・ハザードのコントロールのために導入するインセンティ
ブ契約も、そういう危険性をはらんでいる。

 

 

----------
■リスク負担とインセンティブ契約
----------

 

 モラルハザード問題を抑制し業績を高く維持するための効率的な
インセンティブ契約を設計するには、改善されたインセンティブか
ら得られる便益とリスク負担の費用をバランスさせる必要がある。

 

 従業員に支払う報酬をリスク回避型の固定給制にすると、リスク
負担費用(つまり従業員にリスク連動型の業績給を呑ませるために
報酬の分配率を高めに設定するための積み増し分の出費)は最小に
なるが、そのかわりモラルハザード問題が発生したり、金銭的業績
向上に対するインセンティブは消える。

 

 つまり従業員は企業の業績には無関心になる。というのも働かな
くても毎回同じ給料がもらえるとしたら、人間はさほど働かないか
らである。

 

 そして業績を伸ばしたり収支を改善したりする代わりに、せっせ
と「内職」に励んだり、自らのグループの拡大や影響力の拡大に奔
走することになる。

 

 そういう人間をうまく働かせて稼がせようとして業績と収入をリ
ンクさせると、今度は投資家が儲からなくなる。

 

 だから工夫してうまくインセンティブ契約を結ばなければ、設計
者が意図するような組織運営や行動が生じない。

 

 これは営利企業のみならず、公的な組織(政党・公共団体・地方
自治体・公営企業・協同組合など)にも当てはまる。

 

 詳しくはまた後に取り上げることになる。

 

NEXT:保証金の預託とモラル・ハザード

 

スポンサードリンク

このエントリーをはてなブックマークに追加