シャピロ=スティグリッツのモデル(1)

シャピロ=スティグリッツのモデル(1)

シャピロ=スティグリッツのモデル(1)

 従業員が職務に対してまじめに働かないと成り立たないような組織を考える。

 

 たとえば賄賂の誘惑に耐えなければならない警察署、たとえば顧客第一に考えるセールスマンに依存しなければならない営業部、たとえば仕事先の商品を万引きして帰らない警備員に依存しなければならない警備会社。

 

 こういう組織で従業員に規律を守らせようとするには、「規律を守らねばクビにするという脅し」と「転職した場合より高い給与を支払う」という二つのことを行わなければならない。

 

 たとえば現在の従業員の報酬をw、ここを辞めて他に就職先を求めた場合にもらえるだろう賃金をw^とする。

 

 ただしw^は期待値であって、失業したりする可能性をも勘案した額であるとする。

 

 ここでバレるかどうかと言う問題はさておき、従業員が賄賂や万引きなどの「背任」で得られる利益をgとする。

 

 もちろんこの中には金銭も含まれるし、また仕事をさぼって一服したり会社の備品を家に持ち帰って恋人や子供に与えたときに得られる「ちやほや」も含まれる。

 

 さらにどんな背任行為であれ、それがバレる確率をpとし、また従業員が継続して雇用される回数をNとする(単位は日とか月とか年で、その間のベースアップや利子率も勘案されているとする)。

 

 倫理や道徳と言った価値観を当面無視することにすると、従業員にとって背任が純粋に個人的利益となるのは g>p(w−w^)Nが成り立つときである。

 

 すなわち背任による利益が、解雇による所得損失額と摘発確率との積を上回るときである。

 

 w−w^が「現在の職で得ている収入が、他の雇用機会から得られる収入を上回る額」で、これを特に「従業員が現在の職から得ているレント」と呼ぶ。

 

 レント獲得の可能性が、現在の職や将来の再雇用可能性を従業員にとって価値あるものにし、解雇を避けるべき努力につながる。


道徳性とインセンティブ

 もちろん道徳性も多少のブレーキにはなるが、多くの経験から言えば組織内の背任行為の多寡はインセンティブに依存している。

 

 そして背任が処罰されずに看過(見過ごすこと)されると、同類が増殖する。

 

誰かが背任を行ってそれが罰せられないと分かると、道徳心があっても「みんなやってるんだから、、、」という態度が組織内の各セクションに次から次へと伝染していく。

 

「赤信号、みんなで渡れば怖くない」である。

 

 だから初めから正しいインセンティブを与えておかないと、このような背任行為はすぐに全部署に蔓延することになる。

 

 とくに給料が安くても日本の公務員のようになかなかクビにならない職場なら、あっという間に腐敗が蔓延する。

 

 組織が背任行為を防止する最良の手段は結局、背任を採算に合わないものとすることしかない。

 

 アルフレッド・マーシャルが問題にした「同程度のスキルを持つ労働者でも、高賃金労働者のほうが低賃金労働者より勤勉かつ生産的であるのはなぜか」という答えの一つは、高賃金労働者の方が背任による退職によって失うモノが大きいから、と考えられる。

 

今週の・・・

 もちろん「高賃金」であっても働きにくい職場であれば、それは「低賃金」となる。

 

 なぜなら働きにくい職場における「高賃金」の何割かは「我慢料」として作用するからである。

 

 ストレスの多い職場にいると、そのストレスを解消させるために余分に出費が増え、つまり「高賃金−我慢料」=「低賃金」である。

 

 だから額面上高賃金であっても、規律維持に役立つとは限らない。

 

 近年CS(顧客満足)に加えてES(従業員満足)が注目されているが、ESが高ければ人々は安い賃金でもちゃんと働くものだということらしい。

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