モラルハザード対策としてのインセンティブ契約

モラルハザード対策としてのインセンティブ契約

保険とインセンティブ契約

 現実社会における保険というものは、大なり小なりインセンティブ契約という形を取っている。

 

 たとえば火災保険でも被害の全額をカバーしてくれる保険はなく、損害がある一定金額を超えた場合に越えた分だけカバーするという風な契約になっている。

 

 また健康保険でも、被保険者は治療費の何割かは常に自己負担をするという事になっているし、出産や美容整形などの費用の殆どは健康保険では対象外となっている。

 

 さもなければ大した病気でもない元気な病人が医者や病院の施設を占拠して、せっかく集めた保険料がそういう元気な病人のために使い果たされてしまう。

 

 自動車保険では最初こそ標準的な条件で契約するが、事故を起こしたら保険料は割高になるように設定されている。

 

 また小さな被害で保険料が支払われて支払い原資が枯渇しないように支払い規定が設定されている。

 

 こういう風な保険の規定は、保険料支払いで起こるモラルハザードに起因する損益を減らすようにできている。


従業員のモラルハザード

 では企業が従業員のモラルハザード問題の発生を抑えようとするときはどうなるか。

 

 従業員に対してインセンティブを与えるためには、従業員が自らの実績に責任を持つ事が望ましい。

 

 実績を上げた人間がたくさん報酬を受け取り、そうでない者は少ない手取りで済ませられるなら、話は簡単である。

 

 がしかし、それではいつ首になるやも知れないから、従業員はおちおち働いてもいられないということが起こってしまう。

 

 従業員が初めからその仕事に必要なスキルを持っていると言うことは考えにくい。

 

 そして企業にはそれぞれ企業文化というものがある。

 

 だから、その企業特有の仕事の進め方、あるいはその業界の商慣習などを覚えた後でなければ、その企業に入社した人間が結果を出すことができないだろう。

 

 また雇用主と従業員とでは、負担できるリスクの大きさが違う。

 

 雇用主はたいてい様々なストック(貯金や土地・機械などの資産)を持っているからリスク負担の能力は大きい。

 

 しかし従業員はその日暮らしのような者も多く、そういう変動するリスクを負担するのが難しい。

 

 だからそのようにハッキリと実績と報酬をリンクさせたような労働契約を従業員は結びたがらない。

 

 結果を出すまでの猶予期間はできるだけ長く、研修やスキル獲得のためにかかる費用はできるだけ企業に負担してもらうように契約したい。

 

 仕事を失敗した場合の負担はできるだけ企業持ちにし、成功報酬はできるだけ多く欲しい、、、というのがたいていの人間の本音である。

 

 普通一般の人間はそういう風に「リスク回避的」なのだ。

 

 だから企業は従業員に対し負担できる程度の適度なリスク負担とインセンティブ報酬を設定し、リスク負担のコストとインセンティブを与えることから生じる便益とのあいだにちょうどバランスが取られているような契約を結ぶように考えることになる。

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