組織内部での価格システムの利用

組織内部での価格システムの利用

組織内部での価格システムの利用

「市場の失敗」とは市場によって決定される財やサービスの価格が、資源の効率的な配分を実現せず、経済全体の総価値(総効用)を最大化(パレトー最適化)させないような状態のことであった。

 

 そして「市場の失敗」が起こるのは、

  • 1)市場支配力を行使する勢力がある場合。
  • 2)規模にかんする収穫逓増がある場合。
  • 3)外部性や市場の欠落がある場合。
  • 4)サーチングやマッチング、或いはコーディネーションに費用が かかるために分権的市場が成立してしまう場合。

などであった。

 

 伝統的な考え方では「市場の失敗」は政治による市場への介入を正当化するものであったが、しかし市場の失敗を解決する力が個人や企業にないわけでもない。

 

 つまり自由な経済であれば「市場で手に入らねば自分で作ればよい」わけであるし、市場で供給されない財でも直接取引によって財やサービスを購入することができる。

 

 だから、必ずしも政府や自治体の手を通さなくとも構わない。

 

 たとえばスポーツ・クラブなどの同好会組織は、市場からそういうサービスを受けられなくても自らで場所を確保し、規約を決め、活動している。

 

 また生活協同組合や大手のスーパーなどは、各地の生産者組合と直接取り引きし、無農薬野菜や市場に殆ど出回らない特産物を購入したりしている。

 

 だから必ずしも「市場の失敗」=「政府の介入が必要」というわけではないのである。

 

 組織というモノが「市場の失敗」や「市場の欠落」による価格システムを埋め合わせるために存在するという考えは前にも紹介したが、しかしそうやって市場の失敗を補うためにできた組織であっても、その内部では「価格システム」が利用されている場合も多い。

 

 

企業の経営と事業部制

 

 企業がまだ工場経営者と労働者だけで成り立っている頃には、経営は非常に簡単なものであった。

 

 というのも資本の所有者は工場長であり経営者であり、経営の評価とその利益の受取手もやはり工場長であり経営者であったから、工場長であり経営者が全てを判断し、儲けたり損したりすればいいだけであった。

 

 だが企業の規模が大きくなり、財やサービスの生産に様々な工程が必要になってくると、様々な形で仕事を分担し、各部門をコーディネートしながら企業を経営せねばならなくなった。

 

 当初は経営者が全ての部門の状況を判断し、指令を出すという形で企業は経営されたが、この方法は共産主義国の経済体制と同じ非常に困難でコストのかかる方法である。

 

 だから、企業がドンドンその規模を拡大するにつれて次第に別の形で効率的な経営が行えないかという試みが行われるようになっていった。

 

その一つの試みが「持ち株会社方式」による経営であった。

 

 持ち株会社方式とはつまり、各部門をそれぞれ独立させて適当な「小ささ」に保っておき、その利潤だけを徴収しようと言う方法で、各部門の活動をコントロールするのに株主としての権利を使おうという方法である。

 

 この方法はある程度効果があった。

 

 だが傘下の企業に補完的な関係がある場合は、あまりよくなかった。

 

というのも傘下の企業同士が協力すれば充分利益が上がるのに、経営自体はバラバラであったから、その様な協調行動がうまくとれ無かったからである。

 

 つまり持ち株会社方式では、傘下の企業がまるで違う事業を行っている場合には問題がないが、企業間で共同行動や協調行動をした方が効率的(或いは補完的)になるような場合には、非効率な経営方式になってしまうのであった。

 

 企業の規模を小さなままにしながらコーディネーションによって補完的な経営をすることができないだろうか? と考え、そして発展してきたのが現在多くの企業で採用されている「事業部制組織方式」であった。


事業部制組織

 事業部制方式とは、ある仕事に関して責任を持つミニ企業のような集団(すなわち事業部)を企業の中にたくさん作り、その事業部を取締役会がうまくコントロールしたりコーディネートしたりして企業全体の経営を効率的に行おうというやり方である。

 

 事業部の分け方は、

  • 1)地域によって事業部を分ける場合: たとえば東日本事業部・西日本事業部・中部地域事業部とか
  • 2)生産物によって事業部を分ける場合: テレビラジオ事業部・冷機事業部・オーディオ事業部・コンピュータ事業部とか
  • 3)職能別によって分ける場合:製造事業部・販売事業部・保守事業部など

というふうに企業によって様々だ。

 

こういうふうに分けた各事業部の活動や行動をそれぞれの事業部長が統括し、その財務成績などを通して企業全体の経営者が評価するのである。

 

 もちろん各事業部の下部にも小規模の「責任センター」が組織化され、そのセンター長も事業部長と同様の権限と責任を負う場合も多い。

 

 つまり事業部制は企業の中に「経営に適した大きさ」の組織を作ることによって経営効率を良くし、業績や責任の所在をハッキリさせるわけである。

 

 だがこれだけでは、単なる持ち株会社方式である。

 

 それならそれぞれの事業部を別会社にすればいいだけである。

 

 事業部制組織の特徴は、企業全体の活動をより効率的により補完的に行うために、各事業部で生産される財やサービスを別の事業部と頻繁に融通し合うという前提で組み上げられていることである。

 

 すなわち「協力した方が有利な場合は協力し、関係ない場合は別々に事業を進める」ということで、それを上部の取締役会などでコーディネートしていこうということである。

 

 で、事業部間での取引は「移転価格」によって行われるが、これは言ってみれば「企業内で価格システムを利用しよう」という試みで、この移転価格によって事業部はその生産効率を測られることになる。

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