近視眼的市場と近視眼的経営

近視眼的市場と近視眼的経営

近視眼的市場と近視眼的経営

投資が近視眼的になる原因
----------
 多くの企業では、経営者と何らかのインセンティブ契約を結んで
いる。

 

 アメリカの場合、経営者になる人間は生え抜きの場合もあるが、
外部から招聘することもよくあるから、どういう業績をあげればい
くら報酬を払うか、ということを契約ではっきりさせるわけである。

 

 で、インセンティブ契約の指標となるのはインフォーマティブ原
理によりわかりやすい指標が選ばれる。

 

 インフォーマティブ原理とは、効果があったのかなかったのかが
よく分からないようなことを指標にするより、ハッキリ結果が分か
ることを指標にした方が、働く人間はしっかり働くという原理であ
るが、そのために収益率・業績・株価などが指標として利用される。

 

 だからもし企業の経営者が自らの業績を高く保ち、自らの地位を
守ろうとするなら、投資家にはなるべく格好のいい情報を提供して
株価が下がらないように気を配るだろう。

 

 とすると、経営者は必然的に中長期的な投資ではなく、非常に近
視眼的な投資に多くの資本を振り向けることになる。

 

 短期ですぐに実績が上がるような方面にばかり企業資源(資金や
人材や技術)を配分することとなる。

 

 そして一方一般の投資家は、そんなに特別な大金持ちではないか
ら、そんなに長期に渡る投資には耐えられない。

 

 何十年先に成功するような事業に、資産も貯金も乏しいサラリー
マンがいったいどうして投資できるだろう?

 

 また長期的な投資は見通しが悪い。

 

 結果がどうなるかなんて誰にもわからず不確実すぎる一方、短期
的投資なら比較的予想が立てやすく結果に関しても納得がいくこと
が多い。 

 

 そういうわけだから当然投資家達も非常に短期間で投資の結果が
分かり、収益を上げたり投資を回収したりという近視眼的投資に貴
重な自分の資金を優先的につぎ込むこととなる。

 

 その結果企業の経営者は長期的展望にたった先行投資を行うより、
短期的に結果の出るお手軽な投資に力を入れることとなる。

 

 

----------
■新しい(?)組織理論
---------- 
 だがしかし将来の収益を確保するのには、地道な努力と長期的な
展望にたった投資が必要だ。

 

 だから企業は経営者に対して短期的な投資だけでなく長期的な投
資も充分行うようなインセンティブを与えなければならない。

 

 それにはたとえば政府の補助金政策なども有効だろう。

 

 だが投資家も企業のリストラや合併、あるいは不採算部門の売却
に大きく反応するのだから、投資家が全て中長期的な投資を評価し
ないと言うわけでもない。

 

 経営者に長期的投資を行わせるための方法としては、

 

1)株式の多くを、すぐに売却して売買利益を上げようとしない株
  主に売却する(日本型)。

 

2)企業の経営資金の殆どを銀行から借りる(ドイツ型)。

 

という二つの方法がある。

 

 日本では主要会社の株式の約70%が他企業や金融機関に保有さ
れていて、経営陣の評価は株価ではなくメインバンクなどによって
行われることが多い。

 

 ドイツでは銀行から多額の借金をする見返りに経営陣に銀行から
派遣されたスタッフが加わり、監査役として経営を評価している。

 

 銀行借入が株価による資金調達より大きくなれば、経営者は株価
をさほど気にせずとも良くなるから、このような状況が作り出せれ
ば企業は経営者に企業のファンダメンタルな価値を強くするような
長期的投資をさせることが可能になる。

 

 1990年代のアメリカの機関投資家(インスティチューショナル・
インヴェスタ。保険会社・ミューチャルファンド・年金プランなど)
は、長年行ってきた性急な投機では結局利益が上げられず、株式の
長期的保有に戦略方針を改めた。

 

 そうして企業の大株主として、経営者により効率的な経営を行う
ようにと圧力をかけるようになった。

 

 というのも機関投資家は巨大な金額の投資を行うので、いくらコ
ンピュータとポートフォリオ理論を利用して短期的に効率的な投資
を行おうとしても、市場影響力が大きいので思ったほどの収益が上
げられなくなったからである。

 

 機関投資家が大量の株式を買えば確かにその株の株価は上昇する
が、株価が高くなったからと言ってその株式を機関投資家が売却し
ようとすると、いっぺんにまた株価が下がってしまうのだから当た
り前だ。

 

------------------------------------------------------------

 

          この章のまとめ

 

------------------------------------------------------------

 

 金融資本市場が完全であれば、企業家は同じ金利で必要なだけ資
金を調達することができる。

 

 お金を借入るときの金利も、貸出すときの金利も殆ど同じ水準で
ある場合、企業の投資は投資する企業家の私有財産の多寡に左右さ
れず、ただその投資が将来もたらすであろう予想収益によって決め
られることになる。

 

 すなわち金を借り入れて投資しても充分金利が支払え、なおかつ
利益が見込める場合には投資が行われ、そしてそうでないときはそ
の投資は行われない。

 

 つまり投資は企業家の財産状況や金回りとは無関係に、その投資
が儲かるかどうかによって決められるわけだが、これを

 

「フィッシャーの分離定理」

 

と呼ぶ。

 

 では今借り入れた投資で、将来儲けられるかどうかはどう計算す
るのだろうか?

 

 それには「現在価値」という尺度が用いられる。

 

 すなわち金利をrとしたとき、t年後のキャッシュフロー(売り
上げからランニングコストを差し引いた粗利益)を(1+r)のt
乗で割った数値が現在における金銭価値に相当する。

 

 たとえば十年後までに召還しなければならない借入金が一千万円
あったとしたら、一年後から十年後までの予想売り上げを計算し、
それをそれぞれ(1+r)^tで割った現在価値を全部足したとき
にそれが一千万円以上あれば良いことになる。(超過分が儲け)

 

 

 さて資本の調達には「負債(借入金)」と「エクイティ(自己資
本)」という二種類の方法があるが、企業や投資家が自由に無制限
に投資が行えるなら、その比重はその企業の市場価値には影響を及
ぼさない。
 これを「モジリアーニ=ミラーの定理」という。

 

 フィッシャーの分離定理が適応できる場合、市場における投資は
「効率的になる」。

 

 というのも全ての企業にとって、投資の資本コスト(金利rのこ
と)は同一になるから、それ以上の収益が見込める投資のみが実行
に移されるからである。

 

 最後に投資家がもし投資先の企業の予想収益やその期待値を掴み
得るモノと仮定すると、たった一種類の組み合わせだけが収益を最
大化しうるという「ワン・ファンド・ポートフォリオの定理」が成
り立つ。

 

 そしてそれをもとに各株式の価値を決定すると、ある株式の実勢
価格が高いか安いか判断できるから、投資家はそれを元に確実で実
りの多い投資を行うことができる。

 

 だがしかしそういう目安が仮にうまく計算できたとしても、それ
が実際の利益になるかと言えば、そうではない。

 

 証券市場はあらゆる情報を元に瞬時に価格が調整される市場であ
るから、そのような計算が成り立つならば儲けも瞬時に0になって
しまうからである。

 

 

(つづく)
------------------------------------------------------------

 

         今週のどうでもいい話

 

------------------------------------------------------------
【閑話】
 CEO(チーフ・エグゼクティブ・オフィサー)の日本語訳は、
「ちょっと、エエカッコしいの、オッサン」。
 オバハンでもいいけど。

 

 次回からは、コーポレート・コントロール。
 企業の買収とかの話です。
 結構面白いです。

 

NEXT:バイ・アウト!

スポンサードリンク

このエントリーをはてなブックマークに追加