非営利組織とモラルハザード

非営利組織とモラルハザード

非営利組織資金の所有権

 プロフィット(金銭的利益)を目的としない「非営利組織」には、モラルハザードが起こらないかのような錯覚がある。

 

 だが1989年のカリフォルニア大地震の際に、アメリカ赤十字社は救済目的のために巨額の寄付金を集めたが、その一部を何の公表もないまま他の目的のプログラムに流用した。

 

 またあるキリスト教会組織の慈善活動資金や、インドのグルの集めた資金も、それぞれのリーダー達によって別の目的に流用されたと報じられ批判を受けた。

 

 1991年にはスタンフォード大学がアメリカ連邦政府の補助金を研究費に充てずに、流用して豪華なヨットやイタリア製の高価な調度品購入に使ったのではないかという嫌疑で捜索を受けた。

 

 慈善事業や非営利の組織であっても、多額の資金を得た場合にはそうした「誘惑」が起こり、巨額の損失や使途不明金を出す。

 

 非営利組織であっても、このように営利組織と同様のモラル・ハザード問題が生じ、問題が起こるわけである。

 

 その一つの原因は、「非営利組織は集めた資金がたくさん余っても、それを誰にも返さなくとも良い」というところにある。

 

 つまり非営利組織の資金というのは、自発的な寄付によって支えられていたりする。

 

 だから、組織の財産に対する所有権は表向き、無い。

 

 すなわち誰かが寄付金の使い方やコントロールを決定しているのは確かだ。

 

 しかし、寄付を行った人間の満足は寄付を行った時点で生じており、それがどのように用いられたかを正確に把握する必要はあまりない。

 

 もともと「寄付金」というモノは、「貧しい人々や困っている人人に消費される目的の金」であるのが当然であり、霧散していく性質のものである。

 

 寄付金は初めっから戻ってこないモノだということがわかっていて寄付されるものだから、所有権に関する問題は生じない。

 

 おまけに寄付金を募る組織自体の運営費も、寄付金に依っていることも多かったりする。

 

 教会や寺社などの運営費の一部が寄付に依っていることは周知の事実であるし、それが妥当だと考えられている。

 

 また明らかに採算のとれないような慈善事業や救済事業は、寄付で活動費用が賄われるのも妥当だと捉えられている。

 

 だから、普段からその使途に関してはあまり詳しく詮索されない。

 

それがモラル・ハザードの温床となる。

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非営利組織のモラル・ハザード

 非営利組織のモラル・ハザードは、営利組織におけるモラル・ハザードと同様であるが、一つ異なる点がある。

 

 たとえば営利組織では市場競争によって常にコスト=パフォーマンス(生産性)を引き上げることが要求され、また経営者はコーポレートコントロール市場を通しての「罷免」という脅しによってモラル・ハザード行動が抑えられる。

 

 だが非営利組織ではそのような生産性向上圧力や、代表者に対する抑制力があまりないということである。

 

 おまけに非営利組織によってサービスを受ける者は、非常に低い対価によってそのサービスを受けている場合が多い。

 

 災害救援事業で配られる食料や救援物資はたいてい無料だし、慈善事業で振る舞われる食事はタダである。

 

 これらのサービスはだから非常にコスト・パフォーマンスが高く、サービスを受けている者が非営利組織から営利組織の「割高な」サービスに鞍替えすることは考えにくい。

 

 つまりサービスを供給する相手(客)は逃げないのである。

 

 客がたくさんいるならその非営利組織はちゃんと活動していることになる。

 

 だから、組織の代表が罷免される根拠は乏しい。

 

 これがつまりモラル・ハザード問題が起こりやすくする別の原因となる。

 

 このような非営利組織のモラル・ハザード問題を抑制するには、次の三つのような方法が考えられる。

 

1)組織運営に携わる代表の資格を法的に厳しくする。

 

 たとえば年限を決める、資産状況を公開させる

 

2)組織の目的実現に強い関心を持つ者(ボランティア)を中心に 雇用する。

 

これはボランティアが組織運営の監視役となるからで ある。

 

3)組織の代表(理事)には、大口の寄付者などを充てる。

 

 たとえばアメリカの場合、ファンクラブのようなモノでも代表 者は社会的に地位の高い医者や議員などを充てる。

 

 ある人がスタートレックの日本の公式ファンクラブを立ち上げ ようとしたら、「ファンクラブの代表は医者か弁護士にしてくれ」 とアメリカから要請を受けた、なんて話もある。

 

 もちろん受益者が組織の代表となってはいけないし、大学の理事会の決定には学生や教員は影響を及ぼせないように工夫するのは当然である。

 

 非営利組織は目的はあっても効率や生産性の追求が行われない場合が多いから、そういった方策が講じられない状態での運営には常に何らかの監視が必要になる。

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