企業文化と評判、そして終局ゲーム

企業文化と評判、そして終局ゲーム

企業文化と評判、そして終局ゲーム

「評判」の限界と「企業文化」

 

- 取引や契約が何度も繰り返し行われるような場合、信頼を裏切った場合の利益より信頼を得る場合の便益の方が大きくなる。

 

 このような場合、取引相手の信頼を失うような行動は自らの大切な「評判」を落とすことになり、そのために多くの利益を失う。

 

 だから企業も個人も評判を気にし、可能な限り(少なくともハッキリ見えてしまう面だけでも)誠実であろうとする。

 

 だがもし契約に違反し、意志決定者が節度のない行動をとった場合、それを法廷で立証するのは難しい。

 

 状況の認識にも相違があろうし、当事者にとって何が節度ある行動であるかという認識もハッキリしない。

 

 一人の行動ですらフェアであるかどうか判定するのが難しいのだから、委託者が複数であるともうどうしようもない。

 

 これらの点が「評判」にのみ依存するシステムの有効性を著しく弱めてしまう。

 

 だからこの欠点をなんとか克服しようと言う試みがなされているのだ。

 

 しかし、集団内での「評判」に頼るシステムの有効性を高める方法として、集団の構成員が共有できるような修得しやすい原則や慣例を定め、それを発展させるという方法がある。

 

 これがすなわち「企業文化」と呼ばれるものである。

 

 大規模な組織ではこのような原則によって意志決定を容易にし、社員も次に何が行われるか理解するのが容易になる。

 

 以前の章では企業文化を組織内部のコーディネーションのための一つの材料、すなわち企業がどう動くか組織内の構成員が予想できれば、全社をあげてそれに取り組む体制を容易に作り上げることができるモノ、、、、として捉えたが、この企業文化というモノの機能によって組織員には「何が適正な行動で何が不適正な行動であるか」を判断し、生じた係争を解決するための原則と手順が与えられるのである。


企業合併の困難さとムラ社会

 もちろん企業文化や組織の文化は、企業や組織ごとに違う。

 

 販売会社なら社員は背広を着ていて当然であろうが、工場や工房や工務店勤務の人間が背広など着ていたら「まじめにやれ」「馬鹿にしてんのか?」ということになる。

 

 企業や組織によって発生するトラブルの形は様々で、それを収拾するやり方も様々になる。

 

 上の例でいえば、販社の社員がネクタイもしないでカジュアルな服装をして出社すれば部長会や役員会で問題になり、改めなければクビになる、、、が、工場の場合は逆に従業員がスーツなど着て仕事にでてきたら、「気取りやがって、袋叩きだ」という形で解決されることになる。

 

 こういうわかりやすい例ならまだマシだ。

 

 しかし、微妙に異なる違うタイプの企業文化を持った企業同士が合併するような場合、困ったことになる。

 

 というのも以前の企業で普通にやっていたことをやるだけで「評判」を落としたり、評価を落としたりする。

 

 だから合併というのは人事関係でギクシャクする。

 

なんせ評価の暗黙の基準が企業によって異なるのだから、違う文化を持った企業が合併すると、評価基準を巡って紛糾することになる。

 

 モノを開発して売る会社とモノを買ってきて売る販売がメインの会社、あるいはモノを売る会社とサービスを売る会社。

 

 そういう質的に異なる企業が企業活動を行おうとすると、評価基準の違いが原因で双方に大きな不満が生まれてしまうことになる。

 

 しかも明確な取り決めや法律に基づくものではなく、慣習法のような比較的曖昧なこの「評判」というものが、実は法律より強い拘束力を持つのだから、困ってしまう。

 

 小さなムラの中で継続して暮らしていく場合、評判を墜とすということはとんでもない重みを持ち、それは現在の罰とともに将来に渡る長い不利益をも覚悟せねばならないことを意味するのである。
-■終局ゲーム

 

- そういったわけで継続して取引を行う場合や、ムラ社会のような集団内でずっと暮らすような場合には「評判」が大きな意味を持つわけだ。

 

 しかし、最後にゲームの終局問題、つまり取引が終わりに近づいた場合の問題について考える。

 

 取引が終わりに近づくと、裏切りによる利益Gが残りの取引を円滑に行う場合の利益より大きくなる状況が現出する。

 

 そうなると「誠実であるという評判」は効かなくなる。

 

 だから、裏切りの確率が次第に高くなっていく。

 

 そのためゲームが終局に近づくと、最後に業績に応じてボーナスを支払うというようなインセンティブを設定し、裏切りが起こらないように配慮しなければならない。

 

 定年間近の管理職に対して、業績に応じて退職後の金銭的インセンティブをしっかり与えて置かねばならない。

 

 事実アメリカのCEO(チーフ・エグゼクティブ・オフィサー:経営最高責任者)に対しても、数年後に辞任が予想される場合にはそういう契約が結ばれているという調査結果が出ている。

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