ハロッドモデル(経済成長理論)

ハロッドモデル(経済成長理論)

ハロッドモデル(経済成長理論)

 Kさんからいただいた論文の抜粋です。

 

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     加速度原理と「ハロッドのナイフの刃」

 

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 (北山孝信,2001,「ケインズ経済学の限界について(サムエルソン
と新古典派総合)」,福井県立大学修士論文,第2章より)

 

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■加速度原理
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 不況期に財政支出を拡大する政策は、ISギャップを均衡させる
に過ぎず、この枠組では、高度成長は説明できない。

 

 サムエルソンの成長理論の源泉は、加速度原理であった。

 

『経済学』の枠組みで、簡単に説明すると、社会が必要とする資本
ストックは、主として所得または生産の水準に依存し、資本ストッ
クへの追加分(純投資)は、所得が成長している時のみおこる。

 

 その結果、好況期は、消費財の売上減のみならず、売上が横ばい、
あるいは以前より低成長になっただけで終わりがくる、というもの
だ。

 

 この加速度原理は、政府の適度な市場介入により、成長が永遠に
続くことを前提としている。

 

 その永遠の成長の前提となるケインズ派の成長モデルが、ロイ・
フォーブス・ハロッドの「ハロッドモデル」であった。

 

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■ハロッドモデル
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「ハロッドのナイフの刃」と称されることもあるハロッドモデルにつ
いて考えていく。

 

ハロッドモデルの基本式は、

 

 経済成長率 G(=ΔY/Y)=s/C …@ 

 

である。

 

 sは所得のうち貯蓄に回される割合である。この貯蓄Sは、投資
Iと均衡している(ハロッドモデルは、IS均衡を前提としている
(ハロッドの前提@)ので、貯蓄の高まりは、投資の高まりと同義で
ある。

 

 次に、ハロッドは保証成長率を提示する。

 

保証成長率 Gw=sd/C  …A  

 

 sdは各社会を構成する人々が、その時点で貯蓄しようとする割
合である。

 

 これにより、国民経済は、保証される成長率をえる。なぜか?

 

 ハロッドは、政府が経済活動に介入することで、市場経済が上手
く立ちまわることを確信している(ハロッドの前提A)。

 

 よって、一時的に投資が抑制されても、財政政策等をとることで、
常に市場参加者が、将来に楽観的見とおしをもち、投資は結果的に
もとに戻り、経済は拡大するからだ。

 

 また、ハロッドは、行き過ぎた投資も政府の介入により御しえる
と考えている。よって、一時的に不均衡が生じたとしても、長期的
にはISバランスは均衡することとなる。

 

 もう少し貯蓄が増えると経済が成長するか考えよう。

 

 経済学上において、投資は生産設備等、購入後も残って蓄積され、
以後も生産に寄与するものをさしている。

 

 我々の投資は、株等の購入を意味するが、それは我々の貯蓄が、
株をとおして企業に貸付られたに過ぎない。企業が、銀行をとおし
て資金を調達したか、株式市場をとおして調達したかの違いしかな
い。

 

 企業が設備等を投入してはじめて投資となる。よって、食料や衣
服等、購入して使えば何も残らない、もしくは、その後の生産に寄
与しないものは、消費になる。

 

 ちょっと歴史の勉強をしよう。戦前の日本には地主がいた。

 

 彼等はいきなり地主になったわけではない。

 

 江戸時代、百姓でも水呑百姓は、年貢を払ってのこりの米で細々
と生活していた。

 

 彼等には、余剰が残る余地がなかった。しかし、もともと土地を
もっていた本百姓たちは、大名に年貢は取られるが、水呑よりは余
裕があった。

 

 そこで才覚のあったものが、千羽ごき等の作業が楽になるものに
投資し、それにより生じた労働余剰などを、当時需要が拡大しつつ
あった綿を作り売ることで、財を成していった。

 

 それにより、もっと人を使って売れるものの生産を拡大し、また
上手くいかなかった者の土地を購入することを通じて、「さま」付
の大地主が形成されることとなった。

 

 ここからも明らかなように、江戸時代や戦前の小作のように、せ
っかく作った米のほとんどを年貢(地代)にとられていては、いくら
生産が拡大できるトラクターや肥料があっても、とてもそれを買え
ないことはわかるだろう。

 

 今日でも途上国では、食べるのに精一杯で、とても投資に回らな
い国が多く存在する。

 

 人は、何にもまして食べることを優先する。腹いっぱい食べるこ
とができて、はじめて違うものに手を出せるのである。

 

 ハロッドの保証成長モデルは、このことを正に前提にしているの
である。

 

 ハロッドの第二の基本式は、 

 

 自然成長率 Gn=労働成長率+技術進歩率 …B

 

である。

 

 ここでの技術進歩率は、投資の拡大、蓄積に依存しているので、
自然成長率 Gn=so/Cr …C と書きかえることができる。

 

 ここでのsoは、自然成長率Gnに必要な人口成長と技術進歩に見
あった貯蓄率である。

 

 ハロッドは、財政、金融政策により貯蓄率を調整し、経済の潜在
的成長率と調和する完全雇用と成長を合理的に維持するための過不
足ない貯蓄率を提供すると考えているので、これにより、経済は拡
大しつづけることができる。

 

 次にハロッドのナイフの刃について考えよう。現実の成長率が保
証成長率を上回った時(G>Gw)、s>sdもしくはC<Crの時、
もしくは両方である。この場合、

 

 G>Gw  s↑=ΔI↑  ΔY↑ 
      ΔC↑    (需要増) …D
                  (ΔS↑)  ΔI↑

 

と投資、所得、消費と投資、さらにまた所得と限りなく拡大循環を
うみ、これにより、ますます、現実の成長率Gは、保証成長率Gw
から乖離していくことになる。

 

 逆もまた真なりで、ますます下方へ乖離する。

 

 ハロッドは、現実成長率が下回る場合の「底」は、難解な問題だ
とするが、現実社会においては、政府当局が金融・財政政策により
重大な落ち込みを防ぐため、この問題は緊急性をもたないとしてい
る。

 

 また拡大期においては、資本の蓄積等のより、成長率は保証成長
率を上回り、元の均衡に戻らない、としている。

 

 このように見ていくと「ハロッドモデルはなんなのか?」と思う
ことだろう。

 

 現実の成長率が保証成長率と乖離していくのであれば「保証成長
率そのものが何なのか?」ということになる。

 

 このような、ハロッドモデルの不安定性に対し、真っ向から異論
を唱えたのが、ロバート・ソローだった。

 

 ハロッドは政府の介入により経済成長を維持しうることを大前提
しているが、これは正にバブルの論理である。

 

 政府の市場介入、財政・金融政策の対し、市場参加者が信認を失
えば、将来の見通しは悲観的なものとなり、経済は成長できなくな
ってしまう。

 

 ハロッドのモデルにしても、サムエルソンにしても、財政・金融
政策により不況期に適度に需要を喚起することで、国民が国民経済
に対し、楽観的見とおしをもつことを大前提とした。

 

 事実、60年代までは、高度成長を謳歌し、永遠にこのような成長
が続くと考えられ、多くの人々が将来に楽観視した。

 

 70年代に入ると政府の失敗等の弊害が目立ちはじめ、これまでな
ら上手くいったはずの、不況期の財政策でも高成長は元に戻らなか
った。

 

 結果、フリードマン等市場を万能とする自由主義者、政府懐疑派
の影響力が強まることとなった。

 

「スタグフレーション」という厳然たる事実のもと、政府の財政政
策の神秘性は喪失し、ハロッド、サムエルソンが前提とした「将来
への楽観見通し」も崩壊した。

 

 彼らの枠組みは、所詮「バブルの論理」だった。重要なことは、
成長するという「将来への期待」でなく「何故成長するか?」であ
り「成長のために何をなしうるか?」ということだったのである。

 

 こうして、新古典派総合は、70年代急速に影響力を喪失すること
となった。

 

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■参考
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 将来的に、不況になっても政府の介入により、成長が維持できる
(ΔY↑)と考えれば、企業は物が売れると期待し、投資を増やして
いく。一般の人々も消費を増やしていく。

 

 しかし「上手くいかない」と考えれば、消費も投資も抑制される。

 

 財政拡大によりISギャップは、一時的にリカバリーできるが、
将来見通しが悲観的であれば、企業も人々も消費と投資を抑制する。
 結果、赤字国債は累積することとなる。

 

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