負債デフレーション

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 大不況が発生する原因に対する大きな疑問は、物価が下がるのに
なぜ消費が喚起されずGDPが下がってしまうのか、、、というこ
とである。

 

 デフレが経済に悪影響を与える仮説が二つある。

 

 一つは「予期されるデフレ」に対する仮説、もう一つは「予期さ
れないデフレ」である。

 

「予期されないデフレ」に対する仮説を特に「負債デフレーション」
という。

 

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■負債デフレーション
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 負債デフレーションの仮説は、債権者と債務者間の富の再分配を
問題にしたモノである。

 

 たとえばAさんがBさんに百万円の金を貸したとする。

 

 この間に「予期されないデフレ」が生じ、百万円の実質的な価値
が百二十万円に膨らんでしまったとする。

 

 そうすると、富は金を借りたBさんから金を貸したAさんに移動
してしまうことになる。というのもこの借金がたとえ無利子であっ
たとしても、デフレのせいで膨らんでしまった実質価値の二十万円
分をBさんはAさんに上乗せして返さなければならなくなるからで
ある。

 

 借りた百万円を何もせずに置いておけば、返す場合もそのまま百
万円返せばいいが、何もしないのに金を借りると言うことは殆どな
いから、Bさんは借金を返すために二十万円分余分に働かなければ
ならなくなってしまう。

 

 そしてここからが「資産効果」というか何というか、金を借りる
のは消費性向がより高い「金遣いの荒いヒト」であり、金を貸すの
はおそらく消費にその金を回す必要がない「裕福人」であると考え
ることができる。

 

 予期せぬデフレで債権者Aさんは実質的に購買力が増したのだが、
その分特に新しく消費するというわけではない。

 

 しかし一方金のないBさんは、金がないから金を借りたわけだが
デフレのせいで支出をかなり切りつめなければ借金の返済に困るこ
とになる。

 

 バブル崩壊前後に住宅を住宅ローン(つまり借金)で買ったら、
担保は値下がりし続けるし、デフレで実質的な返済金額は膨らむし、
不況で収入は減るし、、、

 

 そうなると住宅を売ったとしても半分以上借金が残り、その後何
年も何年も乏しい生活を続けなければならない、と言う感じである。

 

 ところが金を貸したAさんについて考えると、金をBさんに貸し
てしまったし消費を特に増やす必要もないので、全体としては結局
Bさんが切りつめた分だけ支出が減ってしまう!!!

 

 支出とは結局消費C(Y-T)のことだから、

 

IS曲線: Y = C(Y-T)+I(r)+G

 

が内側にシフトすることになり、所得・総生産Yは減少する。

 

 これが予期せぬデフレによる経済減退、つまり「負債デフレーシ
ョン」で、物価が下がるのになぜ消費が喚起されずGDPが下がっ
てしまうのか、という疑問に対する一つの仮説である。

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予期されたデフレ

 

 物価が下がるのになぜ消費が喚起されずGDPが下がってしまう
のか、という疑問に対するもう一つの仮説は、名目利子率に関する
仮説である。

 

 以前の章で述べられたとおり

 

「投資は実質利子率rに依存し、一方貨幣需要は名目利子率iに依
存する」

 

 とすればIS-LMモデルにこれを代入して考えねばならないか
も知れない。

 

 つまりπを予想インフレ率と考えると

 

IS曲線:  Y  = C(Y-T)+I(i-π)+G
LM曲線: M/P = L(i、Y)

 

と言う風に。 

 

 そうすると、予想インフレ率πがIS曲線をシフトさせてしまう
ことが分かる。

 

 投資関数I(r)はrに対して逆相関関係にあるから、i-πが増
えるとI(r)は減ってY(GDP)が減る。i-πが減るとI(r)
は増えてY(GDP)が増える。

 

 だからもしデフレが定着したとすると、予想インフレ率πはマイ
ナスの値を取り、i-πは大きくなってGDPは減ることになる。

 

 デフレが起こると、実質利子率r=i-πは名目利子率iよりπ
だけ大きくなるのであるからたまらない!

 

 今のデフレ時代には、ゼロ金利政策を採って金利が0であっても
実質利子率はちゃんとプラスである。だから投資が落ち込むのは当
然であろう。

 

 

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■インフレと高度経済成長
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 日本の高度成長期には高インフレが生じ土地などの価格も上がっ
たために、借金をして事業を起こしたり土地を買ったとしても、返
済はかなり楽だった。

 

 だから日本の大企業は銀行からドンドン金を借りて事業を興した
り土地を買ったりして事業展開を行った。

 

 つまり高度経済成長期には、百万円借りたとしてもインフレのお
陰で翌年には同じ百万円が80万程度の価値に下がってしまったか
ら、金を借りてモノを生産して商売する方が儲かった。

 

 一アール単位で売買されていた農地が、坪単位で売れる住宅地と
なって予期せぬ値上がり(予期せぬインフレ)を起こしたから、金
を借りて事業や投資をした人間が得をした。

 

 これは負債デフレの理屈で言えば、

 

「金を貸した方から金を借りた方に富が移動した」

 

ということになるだろう。

 

 また「予期されたデフレ」の理屈で言えば、名目利子率iより実
質利子率rは予想インフレ率πだけ低かった、といえる。

 

 実質利子率が低かったからこそ高度成長期というのは投資がバン
バン行われ、国内総生産GDP(昔はGNP)がドンドン膨らんだ
ということになる。

 

 物価水準が下がってなぜGDPが減るかというと、この真反対の
ことが起こったということになる。 

 

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■大不況と貨幣供給
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 デフレでGDPが落ち込む筋道は結局IS曲線の内側へのシフト
であるが、1929年から始まったアメリカの大恐慌時には貨幣供給の
大幅な縮小も見逃せない。

 

 貨幣供給Mを物価水準Pの低下分以上に減らせば、当然デフレに
なってしまう。

 

 デフレで物価が不安定になった時期に貨幣供給量Mを減らしてし
まうと、不安定化が深刻な問題になる。

 

 その結果大恐慌が発生した、、、少なくとも貨幣供給量Mを逆に
増やしておれば、あれほどの大恐慌にはならなかったかも知れない。

 

 アメリカはその後ケインズ的な財政政策(テネシー河開発と、第
二次世界大戦)によって、深刻な大不況から脱することとなった。

 

 ドイツのヒトラーの政策も同様の効果を現したと小室直樹さんの
本にも確か書いてあったな。

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