メニューコスト/協調の失敗

メニューコスト/協調の失敗

メニューコスト/協調の失敗

■メニューコスト論
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 賃金や価格がなぜ、需給バランスに基づいた水準に速やかに調整
されないか? という問題には様々な解説がなされる。

 

 新古典派の研究者は「リアル・ビジネス・サイクル理論」を唱え、
新しいケインジアンは、メニューコストでそれを説明しようとする。

 

 リアル・ビジネス・サイクル理論についてはまた後日、、たぶん
二三ヶ月後に読むことになるが、ここではケインジアンのメニュー
コスト論についてである。

 

 で、そのメニューコスト論とは何かというと、
「価格を変更するには、様々なコストがかかる」
ということである。

 

 一番分かりやすいのがレストランのメニューに記される価格で、
これを変えるにはメニューを新しく印刷せねばならない。

 

 もちろん印刷するコストのみがかかるわけではなく、新しい価格
を決めるという作業自体ににもコストがかかる。

 

 というのも新しい価格を決めるというのは結構戦略的な問題であ
り、かならず同業他社や競合他社の動向を探ること抜きには考えら
れないものだからである。

 

 ここ最近の電話会社の「マイライン狂騒」なんていい例だろう。

 

 A社が値下げを発表したらB社はさらに大きな値下げを図る。
 シェアでは圧倒的なN社も値下げに踏み切らねばならなくなるし、
全然別のシステムであるIP電話の価格も気にしなければならなくな
る。

 

 おかげでメニューコストは膨大だ。CMは毎回新しく作ることに
なるし、パンフレットなどの宣伝材料も何回も印刷することになる。

 

 また値下げが企業の利益を帳消しにするような大きさであれば、
企業は需給バランスの均衡する価格に自社の価格を設定しない場合
もある。

 

 よく言われる「価格の下方硬直性」というやつであるが、とにか
くそういうわけで価格を下げるのにはいろいろなコストがかかる。

 

 価格の変更にコストがかかるならば、そのコストより利益が大き
くなる時点まで価格の変更は行われない。だから需給バランスが変
化しても価格はすぐには変化しない、、、というのがメニューコス
ト論による説明である。

 

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■賃金と価格の跛行性(さて何て読むでしょう?)
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 世の中の企業は価格をそんなに頻繁に変更しはしない。

 

 毎月PCサーバーの値下げをしているようなCompaqですら、価格の
変更は最短で一か月である。

 

 だがもし企業が価格を毎日のように調整したとしても、賃金は毎
日調整されると言うことはない。

 

 その結果、価格や賃金の変更は跛行的になる。

 

 つまりA社だけ価格を下げ、次にB社だけ価格を下げ、次にC社
とD社が価格を下げ、、、と、価格調整に時間差が出るのである。

 

 その結果、価格の調整が需給バランスによる均衡価格に一致する
のが緩慢になってしまう。
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★はこう【×跛行】
つりあいがとれない(まま進む)こと。
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■協調の失敗と景気後退
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 価格の硬直性が誰の利益にもつながらないとしても、多くの人々
が「価格は硬直的である」と予想すれば、価格は硬直的になる。

 

 というのもそう予想すれば、自らの価格の調整もしないからであ
る。

 

 他のモノが価格を変更しないのになぜ自分が変更する必要がある
のか? と考えればそれは納得がいく。

 

 たとえば多くの企業が価格を引き下げれば需要が爆発し、より多
くの利潤が得られるとわかっていても「他社が皆価格を引き下げな
ければ、自社も価格を引き下げない」。

 

 ユニクロみたいにある企業の供給力が可変で、とんでもない量の
供給を行えるような場合なら、一社が値下げすれば他社は追随する
しかなくなるが、そうでない場合は価格を引き下げない。

 

 その結果その業界は不況に陥るが、でも下げない。

 

 なぜか?

 

 経済がA社とB社という二つの企業だけで成り立っている場合を
仮想して考えてみる。

 

 経済が二つの企業だけで成り立っている場合に景気後退が起こる
とすると実質貨幣残高は低下するわけだが、もしA社が値下げをす
るとすると、実質貨幣残高の低下は緩慢になる。

 

 つまり片方の会社が売価を下げたために、同じお金でより多くの
財やサービスを買うことができるようになるからである。

 

 そしてそのお金でB社から財やサービスを買うとすると、B社は
値下げをしていない分儲かってしまう。

 

 つまりA社が行った値下げが物価水準を引き下げた結果、実質貨
幣残高が上昇し、その上昇した分の実質貨幣がB社の財の購入にあ
てられるとB社が儲かってしまうわけである。

 

 ユニクロやジャスコが低価格体制を敷き、不動産価格や賃料が低
下している一方で、車や宝石や高級ブランドのバッグを売っている
会社(の一部)が空前の収益をあげている昨今の日本経済を考える
と、何となくイメージがつかめるような感じだが、もし全企業が値
下げを行ったならば多くの企業も儲けを出すことができる。

 

 これを「協調の失敗」というが、これが景気後退を進めると考え
る経済学者もいる。

 

 つまり景気が後退して実質貨幣残高が減少したとしても、名目賃
金はなかなか下げられない。

 

 名目賃金が下げられないなら実質賃金は上昇しているから、失業
率は高くなる。

 

 ここでもし各企業が協調して賃金を引き下げる事ができれば、失
業率が高くならないのだが、失業していない人間は実質賃金が上昇
しているのでそんな相談には応じない。

 

 景気のいい企業の従業員の賃金を引き下げる必要はないし、公務
員は自らの賃金を景気のいい企業の賃金に合わせて設定する(少な
くともじり貧企業の賃金水準より高く設定する)から、そんな協調
はしない。

 

 その結果、皆が協調して賃金を引き下げる(というか実質賃金に
名目賃金を合わせる)ことができるならば景気後退が防げるのに、
それができずに景気後退が進む。

 

 若くして死ぬ人が多ければ、年取った人が受け取る年金の額が高
くなる、、、みたいな話

 

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