インフレに対する社会的誤解

インフレに対する社会的誤解

インフレに対する社会的誤解

 以前にも検討したとおり、国民の購買力の増加は資本蓄積と技術
進歩によってもたらされる、、、、、とテキストには書いてあるが、
もうすっかり忘れてしまったので、ここでもう一度復習してみる。

 

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■実質賃金上昇の二つの源泉
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 貿易が無視できる経済を考えるとき、国内総生産GDPはそのま
ま国内所得(国民所得)Yと同じ額であるから
 Y=F(K、L) 
である。

 

 ここで話を簡単にするために「規模による収穫不変」を仮定する
と、「労働者一人当たりの産出量Y/L」を考えることが簡単になる
ので、生産関数をLで割った式を考えてみる。

 

 つまりzY=F(zK、zL)のzに1/Lを代入するわけで、
 Y/L=F(K/L、1)
である。

 

 この式は労働者一人当たりの産出量Y/Lと、労働者一人当たりの
資本量K/Lの対応関係(つまり関数)を示しているから、Y/Lを
y、K/Lをkとすると、労働者一人当たりの生産関数fが

 

 y=f(k)       ただしk=K/L、
              またf(k)=F(k、1)

 

という風に書けることになる。

 

 この時「資本の」限界生産力MPKはf(k)の微分係数であり、
f(k+1)−f(k)で、以前にも述べたとおり「限界生産力は
逓減」するから、グラフにすると、

 

 

y(労働者一人当たりの産出量)
 ↑
 |    _―――――――― 
 |   /
 | /
 | /
 | /
 | /
 |/
 |_______________
0               k労働者一人当たりの資本量

 

ということになる。

 

 ここでこの一人の労働者の所得はyであるが、このyを労働者一
人当たりの消費cと労働者一人当たりの投資iに分けてみると

 

 y=c+i

 

と書ける(これは閉じた経済(NX=0)の国民所得勘定の恒等式
Y=C+I+Gを労働者一人当たりで除した式であるが、労働者一
人当たりの政府購入gは捨象されている)。
 で、貯蓄率sを0≦s≦1なるsを用いて表すと消費関数cは

 

 c=(1−s)y

 

となるから、投資i(貯蓄に等しい)は i=sy となる。
 つまりsは、一人当たり生産から投資に回される率でもあるので
ある。

 

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 さて企業が資本を購入する、、すなわち生産設備を買い入れると
資本のストックは増えるが、それはやがて時代遅れの機械となる。

 

 その機械の減価償却率をδ(デルタ:小文字)とすると、たとえ
ば寿命が10年の機械であればδ=1/10となる。工場などの建物だと
寿命がもっと長いから、δ=1/25なんて場合もある。

 

 で、ある年度の資本ストックの変化Δkを考えると、

 

 Δk= i−δk

 

であるが、i=sy=sf(k)であるから、

 

 Δk = sf(k) − δk

 

である。

 

 投資sf(k)と減価償却δkが釣り合うとΔk=0となるが、この
ような状態を特に

 

「資本ストックの定常状態(ステディ・ステイト)」

 

と呼び、この時のkをk*と書いて表す。

 

 δは一定の数値だからδkはkと正比例の関係にあり、sf(k)は
資本の限界生産力逓減によってy=logxみたいなカーブを描く。

 

 これらを一つのグラフに書き込んだときの交点が、k*である。

 

 つまり

 

i、δk        δk:資本の一人当たり減価償却
 ↑        /
 |    _――――――――sf(k):一人当たり投資 
 |   / /
 | / / ・
 | /   /  ・
 | / /   ・
 | /  /    ・
 |/ /     ・
 | /_____________
0     k1 → k* ← k2  k

 

なのであるが、最初の状態がどのような状態であっても結局kは次
第にk*に収束していくことになる。

 

 つまり当初一人当たりの資本量がk1(<k*)の状態であったす
れば、投資が減価償却を上回るから資本ストックkはk*までドン
ドン増える。

 

 一方最初がk2(>k*)であれば、減価償却が投資より大きいか
ら資本ストックはドンドン減り、結局k*で落ち着くことになる。

 

 敗戦後、日本や西ドイツは第二次世界大戦による大破壊の中から
「奇跡の経済成長」を遂げて復活した。

 

 それは両国の資本ストックが戦争で灰燼に帰しても、貯蓄率(す
なわち所得のうちから投資に回る割合)が戦前と同様か或いはそれ
以上の水準に維持され、そこから資本ストックの「高い定常状態」
に急激に収束したという風に理解できる。

 

 すなわち実質賃金上昇の源泉の一つは、資本ストックの高い定常
状態への接近である。

 

 

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■労働効率性E(efficiency of labor)
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 労働の効率性をEで表すことにしよう。そうすると労働Lは
L×E
で置き換えることができる。

 

 すなわち生産関数F(K、L)はここで、F(K、L×E)と書
き換えられるわけである。

 

 そして人口成長率をnとしたように、技術進歩率をgとしてみよ
う。

 

 g=0.02なら、毎年2%ずつ労働効率が向上して同じ労働者数で
も生産量が2%ずつ増えるわけである。

 

 ここでgは「労働増大的技術進歩率」と呼ばれるが、こうすると
生産関数自体をいじらなくても技術進歩をモデルに組み込むことが
可能になるわけである。

 

 そう言うわけで毎年の労働増加分を考えてみると、

 

ΔL = (1+n)L×(1+g)E − L×E
   = L×E{(1+n)(1+g)− 1}

 

 ここでn≪1,g≪1のとき、ng≒0と近似できるから、

 

ΔL = L×E(n+g)

 

 ここで

 

■労働効率当たり資本ストック: k'=K/(L×E)
■労働効率当たり生産関数f: f(k')=F(K/L×E、1)
■労働効率当たり資本ストックの変化:
    Δk'=sf(k) − (δ+n+g)k
■黄金律の場合: MPK=σ+n+g

 

となるから、

 

i、δk        (δ+n+g)k
 ↑        /
 |    _――――――――sf(k')
 |   / /
 | / / ・
 | /   /  ・
 | / /   ・
 | /  /    ・
 |/ /     ・
 | /_____________
0         k'*    k

 

である。

 

 労働効率当たりの産出高を y'とすると、定常状態ではy'=(一定)
だから、一人当たりの産出量Y/Lを考えると

 

 Y/L = y'×E

 

で、Eは毎年gずつ増えているわけだから確かに

 

「技術進歩は一人当たり産出量(資本ストック)を増やしている」

 

のである!

 

 経済全体の産出量Yについて考えると、

 

 Y= y’×L×E

 

だから、そういうわけで経済全体では(n+g)ずつ毎年ストックが
増えていくことになる。

 

 つまりこれが実質賃金上昇の第二の源泉である。

 

 

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■インフレに対する社会的誤解
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 さて世間一般には「インフレになると、生活が苦しくなる」と言
うような考えがある。

 

「給料が上がっても、インフレがあると買えるモノが増えない」

 

ので

 

「生活が苦しい」

 

という。

 

 確かに賃金の上昇速度より物価水準の上昇速度の方が速ければ、
同じ給料で買えるモノの量は減ることになるから生活は苦しくなる
が、だからといってそれがインフレのせいだと考えるのは大きな誤
解である。

 

 上で復習したとおり国民の一人当たりの所得(実質賃金)という
のは

 

・経済が定常状態にまで「成長」する場合
・技術革新によって労働生産性が上昇する場合

 

に増え、

 

・人口増加が急な場合

 

には減る。

 

 そして一方インフレとは、前回までで考えたとおり貨幣供給量が
貨幣需要量を上回ることによって引き起こされる現象で、つまり

 

{貨幣量の変化率}≒{実質国民所得の変化率}+{インフレ率}

 

という貨幣の数量方程式の差分形からもわかるとおり、

 

・実質国民所得の増加(%)より貨幣供給量を増やす(%)とイン
フレになる
・実質国民所得の増加(%)より貨幣供給量を減らす(%)とデフ
レになる

 

というだけのことである。

 

 だから中央銀行がジャンジャンお札を刷ってばらまかない限り
(政府の発券収入はインフレ税である)、賃金の上昇とインフレは
別問題である。

 

 言ってみれば非常に「表面的な問題」であり、途上国経済などに
よく見られるような人口増加による一人当たりGDPの低下と同じ
く、非常に「相対的な問題」なのである。

 

 経済学を学ぶ者は、この点を常にしっかり押さえておかねばなら
ないだろう(もちろん長期的な分析では、、という意味であるが)。

 

 

(つづく。次回はインフレの社会的費用)
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         今回の・・・・

 

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 ついでだから「黄金律」の復習も、、、
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■経済の定常状態の黄金律:
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 経済の定常状態は貯蓄率sによって決まる。すなわち、 

 

Δk = sf(k) − δk =0

 

の点の k* である。

 

 しかし貯蓄率(=一人当たりの投資率)sは、政府の政策によっ
て上げたり下げたりすることが可能であるから、政府はそれによっ
ていくつかある定常状態のうちから一つを選ぶことができる。

 

 つまり一人当たり国民所得yは、y=c(消費)+i(投資)で
あり、この式は c=y−i=sf(k*)−δk* と変形できるから、
「一人当たりの消費を最大にできる k* が存在する」
のである。

 

 この時のk*を特に k*gold と書き、「黄金律水準」と呼ぶ。

 

NEXT:インフレの社会的費用

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