農学者チューネンとチューネン圏
産業革命の進展に伴い、イギリスでは殆どの農地が「大農場経営」で運用されるようになった。
だから産業革命に刺激を受けたドイツのテーアも「農業は全て輪栽式経営にすべきである」という意見であった。
だがテーアの弟子であり後継者であったチューネンは師の意見に賛同せず「農地の利用は消費地への運送コストによってそれぞれ別の利用法で運営すべきである」と主張し、著書・孤立国で「チューネン圏」という最適土地利用の分布形態を示した。
その概要を示すと、・都市の近郊では都市よりでる下肥(ヨーロッパでは馬糞。
日本では人糞)を利用できるので農業は「自由式」になり、そして都市までの距離が近いので、生鮮食料品や野菜などの高付加価値作物を作るのに適している。
・そしてその外側の土地では、運送費が高く付く林業のような材木生産が適している。
・さらに山を越えた向こうでは自由式と三圃式とを併用した生産が適している(コッペル式という)。
・それより遠くでは三圃(さんぼ)式、そして放牧が適している。
ということであった。
つまり都市を中心として同心円を描き、都市との距離(運送コスト)によって農業の様態が変わるはずだというのが、チューネンの説であった。
都市の近くに林業地があるのは、材木の運搬に大きなコストがかかるからである。
材木は当初はまず都市の近くから切り出されたが、ドンドンドンドン伐採していくウチに、いつのまにやらとんでもない奥地を伐採する羽目になった。
そうなると都市の比較的近くの山に植林をして林業を行った方が有利になる。
だから都市の比較的近郊に林業地が存在するわけである。
日本でもかつてはチューネン圏で説明されたような分布で農業が行われていた。
全国どこにでも簡単にモノが運べ、肥料も動力も農業機械もどこででも手に入るようになった現代では、どこでも自由に換金作物が栽培できるようになった。
だがしかしそれはチューネン圏の変数が都市からの距離ではなく、生産・流通コストによって決まるようになっただけに過ぎない。