テーアの目指したものとは?

テーアは農業は単なる野良仕事ではなく、農作を通じて社会に貢献し、貨幣を獲得するもの、つまり「産業」であるべきだと主張した。

 

それは言ってみればプロテスタント的な「天職(calling)観」を農業にも当てはめ、それによって農民も幸せになるべきだという主張だったのかも知れない。

 

が、そうしてテーアは先進的な農業技術を積極的に取り入れ、農業生産システムの大変革をすべきだとし、それを本にして著した。

 

経済学はアダム=スミスから。

 

哲学はレッシングから。

 

そしてそれに加えて医師である自分の経験と自然科学の観点から「合理的農業原理」という本を書き、新しい農業のやり方をヨーロッパに広めたのである。

 

テーアが確立した近代農学の基本はもちろん「輪栽式(りんさいしき)」であった。

 


輪栽式というのは以前にも書いたが、休閑地のないローテーション農法である。

 

穀草式のように休閑地でクローバーやカブなどの家畜用飼料作物を栽培し、その飼料を餌に使って「舎飼い」でより多くの家畜を飼う。

 

そしてそのたくさん飼っている家畜の糞尿を今度はたい肥として畑に入れて生産力を上げ、そしてそこからまたより多くの飼料を作って家畜をよりたくさん飼う。

 

そうやってドンドン生産量を増やしていくやり方である。

 

そうしてドンドン生産量を増やしていけば、どこかで均衡点に達し、最後には「地力均衡型の農業」が達成されるから、後はそのまま生産を最大化して維持できる点を見つければよい。

 

そうして土地の地力を落とさずに農業生産を永続化し、安定した農業生産によって高収入を得れば、農民も資本主義経済下で自由な生活ができ、幸せになれるはずだ。

 

それがつまりテーアの考えであったのだ。

 

だがしかし、それは確かに農業を産業化し食糧の大増産につながったが、結局農民全部を幸せにすることはできなかった。

 

というのもそれを行うには農民を教育して土壌を分析したり簿記をつけさせねばならなかったし、計算合理性に基づいた、計画的・科学的・理性的な行動を農民に強いねばならなかったからだ。

 

だが残念ながら大多数の農民はそんな面倒なことはしたくなかったらしい。

 

だから次第に農民は土地から離れ都市へ移り住むようになった。

 

農業の生産性が爆発的に伸びたから、大多数の農民は失業することになってしまったのだ。

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