クローバーが農業革命の嚆矢だった。

ヨーロッパの農業で土地を休ませる目的は、地力の維持であった。

 

ヨーロッパの気候、特に西欧や北欧の気候は乾燥気候であって、日本の何分の一しか雨は降らない気候なので、だから二年も作物を栽培すると土壌から水分が失われた。

 

植物は土中からドンドン水分を吸い上げて、呼吸の際にそれを水蒸気としてどんどん放出する(蒸散)し、砂地でもなければ雨はそんなに地面に深く浸透しない。

 

だから作物を作らず、土地に充分水分が浸透する時期を設けなければならなかったのである。

 

そしてまた休閑地では雑草が生えるから、それを家畜に喰わせて「除草」する意味もあった。

 

もちろん家畜の糞はよい肥料になるし、重い牛が歩き回れば耕す代わりになる。

 

何よりもその当時は家畜は放牧して飼うのが当たり前だったから、そのための場所という意味合いも強かったのだ。

 

牛や馬や羊に「自分のモノである」という印を付けて、そのまま放っておく。

 

家畜は勝手に草を喰い、そして寝る。

 

もちろん日本の農家と同じく家屋の端につないだりして飼うというようなこともあっただろうが、今のように家畜専用の建物を建てそこで家畜を飼う(舎飼いという)ようなスタイルではなかった。

 

まとめると休耕地の役割は、保水・除草・家畜の放牧のための場所の三つだったわけである。

 


ところがいつの頃からかその休耕地に、マメ科の植物である「クローバー」や「アルファルファ」などが導入され始めた。

 

「これを休耕地に生やしておくと、家畜の育ちがいいよ。

 

乳の出も良くなるし」なんて流言飛語(?)が飛び交い、実際そうだったのでそういうことが少しづつ広まり始めた。

 

マメ科の植物というのは空気中の窒素を固定する。

 

根瘤(こんりゅう)という根っこにできたコブで空気中の窒素を取り込み、それをアミノ酸やタンパク質に合成する。

 

大豆を「畑の肉」などと表現するのは、大豆の根瘤と根瘤菌つまり根瘤に住む細菌で、これが実は空気中の窒素を固体化するのだが、これがが効率よく窒素を固定し、上質のタンパク質を合成するからである。

 

マメ科の植物の利点は根瘤菌さえ土中にいれば土中に養分などなくても空気中の窒素をどんどん固定して成長してくれることである。

 

つまりクローバーなどを生やしておいても、土中の養分は減らずにキープしておけるのである。

 

しかもクローバーはあまり深くまで根を伸ばさないので、土中の水分もさほど吸い上げず、またタンパク質が多いから、それを喰った家畜もよく成長する。

 

成長の早い家畜はもちろん窒素をたくさん含んだ糞をするから、結局クローバーを植えた土地で家畜を飼うと、保水ができ除草ができ地力が上昇する。

 

そうしてヨーロッパでは休閑地に草(クローバー)を生やすことによって、増産が期待できるようになった。

 

クローバーという良い牧草が見つかり普及したお陰で、飼うことのできる家畜の頭数も増え、食べることのできる牛乳やバターやチーズなどの酪農生産物も増えだした。

 

このやり方の農業を三圃式と区別して特に「穀草式(こくそうしき)」という。

 

穀物と草(クローバー)を作るから穀草式であるが、そうして農業生産力が全体的に上昇しだしたのである。

 

そしてそれはまた産業革命で増え始めた人口を養う原資となり、そして長年続いていた封建社会体制を突き崩し始めた。

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