ヨーロッパの井戸水の3分の1は肥料のせいで飲めなくなった
ヨーロッパの地下水を汚染したのは、牛や豚の糞尿や窒素肥料であった。
農産物の栽培に使われる三大肥料は、窒素、リン酸、カリ(カリウム)の3つだが収量を増やすために農家はこれをドンドン農地にばらまいた。
また畜産業などでは牛や豚を早く太らせるために濃厚飼料を食わせて肥育(ひいく)を行うのだが、それも河川や地下水汚染につながった。
肥育とは栄養価の高いエサを与えて太らせることで、濃厚飼料とはトウモロコシなどの穀物を含んだエサのことだ。
普段草しか食わない牛に濃厚飼料を与えると確かに家畜はドンドン太るのだが、糞尿に含まれる窒素も増えてしまうのは当然の帰結である。
畜産農家ではたいてい糞尿の処理が不十分で、雨でも降るとそうやって放牧地からドンドン糞尿が垂れ流されてしまう。
私も学生時代に畜産農家の見学に行って、用水路を流れている排水を見て驚いた経験があるが、コーヒー色の排水はまさに家畜の糞尿のせいだった。
また土中の硝酸濃度やリン酸濃度が高まると、それが数ヶ月から数年後には地下水に流れ込む。
そうして硝酸態窒素やリン酸肥料が河川や地下水に流れ出した結果、その水を飲んだ赤ちゃんが紫色になったわけだ。
EUでは飲料水の硝酸濃度の上限を1リットル当たり50mgに決めているようだが、EUの2005年の報告書によると、データの入手可能地域の地下水の約1/3が、この基準を超えているという。
つまりヨーロッパの井戸水の3分の1はもはや飲めないのだ。
ドイツ西部、オランダ、ベルギー、ブルターニュ、スペインの北西部・スペイン北東部イタリアのポー川流域、デンマーク、イギリス西部、アイルランドの南部で深刻で特に集約的な養豚や酪農地域である。
窒素税・EUでは農家は監視の対象
肥料や硝酸態窒素が河川に流れ込むと、「富栄養化」(ふえいようか)が起こる。
三大肥料のうち、カリウムは岩や植物に吸着される率が高いが、リン酸と窒素はドンドン川に流れていくので、川下の湖沼や海にはドンドン栄養が溜まり、赤潮やアオコの大発生を引き起こして海産物にまで被害を及ぼしていた。
また鮭マスなどの遡上も阻まれて、鮭を放流しても帰ってこないということも起こった。
富栄養化の問題は北海道や愛知県や瀬戸内海でも問題になっているのであるが、ヨーロッパでは「窒素税」なんていう税金まで農民に課して肥料の使用制限を検討せざるを得なくなった。
化学資材や肥料投入に対しても様々な規制を設け、糞尿にまで規制をし出した。
そうでもしないと農家は生活のために、ジャンジャン化学肥料や農薬を撒いてしまうのである。
そうでもしないと農家は家畜を太らすために、濃厚飼料を家畜にジャンジャン与え、その結果とんでもない量の硝酸態窒素が垂れ流されて生態系をジャンジャン破壊することになってしまうからである。
そうして今ヨーロッパの農政は、生産者保護型の農政から環境保全型の農政に転換しつつある。
要するに環境を保全するために農家を監視するようになったと言うことだね。