エンブレムと指導

エンブレムと指導

さらば価格競争。コモディティ化の罠から抜け出せ!―コモディティ、製品、サービスに続く、第四の経済価値「経験」

エンブレムと指導

記章とは記念として関係者に渡す、
目じるしとなるもので、
身分・資格・所属団体などを表すために、
衣服・帽子などにつけるしるしのことである。

 

たとえば日本の武術や武道では、
見習い段階を卒業した証として
ブラック・ベルト(黒帯)が与えられる。

 

黒帯はその武術や武道を修練する、
正式なメンバーとして認められたことを意味し、
たいていは初段から黒帯を身につけることを
許される変身記章である。

 

大東流などの古武術では、
さらに奥義三段(三段半)や四段になると袴の着用を認められ、
六段になるとその流派の技の名前の一覧が載った巻物や、
流派の歴史を記した巻物などが授与されて、
正式な師範(教授代理)となる。

 

もちろん初伝・中伝・奥伝・極意伝など、
修行段階によってそれぞれの内容を示した目録や
巻物を授与する場合もあるし、
免許皆伝証書を宗家が出す場合もある。

 

入門者が黒帯をもらえるようになるには、
武術によって異なるが、
最短でも一年以上は修行が必要であり、
たいていは一年半から二年半といったところである。

 

この黒帯を許される一年半から二年半という日数は、
初心者にとってはかなり長い期間で、
挫折しやすく、また体力的な制約、
つまり体力が続かないために辞めてしまうことが多い期間である。

 

だからたいていの武術・武道では、
黒帯まで何段階かの途中の段階を設ける。

 

段位の下に級位を設けて、
黒や赤以外の色帯を締めさせ、
細かく上達を判断して挫折を減らすということを行う。

 

たいていは三級・二級・一級、
帯も緑帯・茶帯という感じであるが、
初段まで時間がかかればかかる道場ほど、
この級位は細かく分かれていることが多い。

 

たとえば某伝統空手では、
初段・黒、
茶帯(1・2級)、
緑帯(3・4級)、
紫帯(5・6級)、
黄色帯(7・8級)、
白帯(9級・新入門)などといったように細かく級位が分かれているが、
これは黒帯までに覚える技や型がたくさんあるからである。

 

フルコンタクト系の空手道場でも、
同じように黒帯までの期間が長く、
同じように細かく級位を設定しているところがあるが、
こちらは恐らく身体ができるまでに、
時間がかかると言うことを考慮したものだろう。

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変身には段階がある

師範は帯の色を見て、
指導の方法を変える。

 

白帯には基本的なことを教え、
黒帯や茶帯には応用や基本動作の修正を中心に教える。

 

級や段によって指導する型や套路を変え、
評価も上に行くほど厳しい視点で評価を行う。

 

つまり変身する途中の段階に応じて、
与える経験を変えていくわけであるが、
これは変身ビジネスのサイクルそのものである。

 

変身ビジネスのサイクルとは、

 

{顧客の希望と現状の分析}
→{変身のための経験の選択}
→{変身の確認と励まし}
→{顧客の新しい状態の分析}
→{次の変身のための経験の選択}
→{変身の確認と励まし}
→・・・
といったものであるが、
武術・武道はすでにこういう手法を確立している。

 

しかしこういう修行上の段階によって記章を与えるというやり方が、
古今東西の武術で当たり前のことであるかというと実はそうでもない。

 

たとえば中国の武術では、
段位とか級というモノは存在すらしない。
もちろん、それを示す記章も授与しない。

 

映画「少林寺」が大ヒットし、
リーリンチェイ(ジェット・リー)などの出演者が日本に来た時、
テレビである作家が彼らに段位を尋ねたが、
答えようが無く困ったというような笑い話もあるくらいである。

 

もちろん修行の段階が進むと、
練習する套路(型)や練習方法が変わるというのは、
日本の武道と同様であるが、
それによって資格や身につける記章を異ったものとするということはしない。

 

拝師という儀式を行い、
技を後世に伝える正式な門人として認められると、
その門派の系図に名前が記載されると言うことはあるが、
変身の証としての記章はない。

 

これはおそらくそう言う段位や記章が、
中国の儒教的な身分制度の構造
(つまり家族それぞれの身分関係・日本で言えば本家と分家みたいなもの)と
衝突するからではないかと個人的には考えているが、
料理人の技能検定には特級とか一級・二級・三級、
というような国家試験があるところを見ると、
単にそう言うことを重要視していないと言うだけかも知れない。

 

余談だが、以前ボクは中国からの留学生の方から、
段位と級のことについて質問されたことがある。

 

「段は一段・二段・三段という風に数が上がっていくのに、
級は三級・二級・一級と言う風に上に行くほど数が減っていくのはどうしてです」

 

そのときボクはこれに答えられなかったが、
今なら少しはマシな答えができるような気がする。

 

 

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