顧客と企業の学習関係

マス・プロダクションとは、画一化された平均的顧客に向けた有形・無形の製品やプロダクトを大量生産することである。

 

そのためには、平均的顧客が「こういうものが欲しいに違いない」という情報を集め、そして製品やサービスを生産するための「鋳型」を作る。

 

工場の金型やコンビニエンス・ストアや、ファーストフード・チェーンのサービス・マニュアルなどがそうである。

 

工場は金型を使って商品を大量生産し、サービス産業は画一的なサービスを提供する。

 

一万個の金型を造ってそれぞれ百個ずつ商品を生産するより、一つの金型で百万個製品を生産する方が安く付く。

 

百種類のサービス・マニュアルを作って、従業員それぞれに百種類のサービスを提供できるように教育するより、一冊のマニュアルで従業員全てを教育する方が安く付く。

 

これがつまり「規模の経済性」と呼ばれるモノで、これによって農業や工業やサービス業は多大な利益を上げてきた。

 

だがしかしそのようなやり方は、顧客に広くガマンを強いることになった。

 

顧客は自分の欲しいモノを欲しい分だけ欲しいのだが、そうやってマスプロで生産された無用の機能やサービスのついた商品やサービスを無理矢理買わされる羽目になった。

 

顧客はいりもしない機能や一度も使いもしない機能のついた製品や、頼みもしない邪魔なサービスの付いた商品を、必要以上の金を出して買わねばならなくなった。

 

つまりたいていの顧客は、企業から提供されるそういうマスプロ製品やサービスのお陰で、実はガマンを強いられているのである。

 

それに対してマス・カスタマイゼーションは、顧客それぞれに対して別の商品や、別のサービスを提供する仕組みを組織化する。

 

商品やサービスを発注するのは顧客であり、顧客の要望を最大限に実現するために、努力をするという方向でモノを考える。

 

顧客の本当に求めているモノが何かを突き止め、それのみを提供する。

 

サービスとは元々そうやって「顧客の注文に応じてカスタマイズされるモノ」なのであるが、注文より前に顧客のカバード・ニーズを突き止めて準備する。

 

言ってみれば「散髪屋にお客さんが来る前に、そのお客さんがどのような髪型に散髪して欲しいかを予想し、そのための準備をする」ということであるが、その情報を得ることによって「不必要なサービスや商品の準備が不要になる」ので、それによってコストダウンが図れるのである。

 


無用な物を作らないことでコスト削減

現在世界最大の小売業であるウォル・マートは、1990年代には最近倒産したKマートと同規模のホームセンターでしかなかった。

 

しかし会員サービスによって得られたPOSデータを企業に提供し、それによって発注や品揃えの無駄を省くことで、全米一の低価格で仕入れをすることが可能になった。

 

ウォル・マートの顧客は全米の80%を占める低〜中所得者層であるが、彼らが何を買いこれからどのような商品を欲しがるかをPOSデータから読みとることによって、不必要な生産や資材調達が不要になった。

 

その分、配送コストや販売コストを、低減させることができるようになった。

 

企業は顧客の属性情報、たとえば「年齢・性別・住所・家族構成」と、店舗などでの買上実績データ、つまり「いつ・どこで・何を・いくらで・どのくらい買ったか」を分析することによって、次にこの顧客がいつ・どこで・何を・どのくらいの価格でどれだけ買うかという予測ができる。

 

企業はだから、そのための品揃えを前もって用意すればよく、それ以上の生産や個数や品揃えを用意する必要はないというわけである。

 

需要予測を行い、企業の勝手な妄想で決めた販売価格と販売個数で作ったモノを市場に出す場合と比べ、どれだけ無駄が省け無用なコストが削減できるかは想像に難くない。

 

大量生産することによってコストを下げるのではなく、無用のモノを生産しないことによってコストダウンが図られるのである。

 

そしてそういう品揃えを企業や店舗がするとのは顧客の側から見ると「欲しいモノが欲しい価格で手に入る」と言うことになる。

 

顧客は自分の買上実績情報を企業に提供することによって、欲しいモノが手に入りやすくなる。

 

しかもほぼ自分の望んだ価格で。

 

顧客が自分の欲しい商品の情報をより多く提供すればするほど、企業からより良質で顧客それぞれのニーズにあったサービスを購入することができるなら、顧客はその店や企業で商品やサービスを購入することを第一に考えるだろう。

 

顧客と企業がそういうふうな「学習関係」になれば、顧客と企業のつながりは時とともに深化し、そして洗練されていくことになる。

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