2004年の前期の問題を、二つ書き出して、比べてみましょう。
--<京大>---------
【1】(1)次の英文を和訳せよ。
Science visibly improves its own powers, adds to itself, and carries us all forward with it. There have long been moral and emotional reasons to be informed about the latest advances, and now there are political
and social ones as well. Knowing some of the facts and issues surrounding the latest research evelopments allows one to be part, and feel part, of the decision-making process.
-----------
比較のために、東大の【4】(B)の(1)を載せてみます。東大の問題では、こ
の下線部和訳が最長のものです。
-----------
A simple glimpse at even some of her features --- her silhouette, her eyes, perhaps just her hands --- brings instant recognition even to those who have no taste or passion for painting.
-----------
東大の下線部和訳は、二度読めば何のことか、おぼろげながらわかりますね。
名詞構文などをしっかり勉強して、核文変形になれている人ならば、日本語に訳すのもそれほど難しくはないでしょう。
glimpse は「ちらっとみる」で、よく見かける単語ですし、silhouetteは、無理に読むと「シルホウエット」で「シルエット」だと気づけば単語的にもそんなに難しくありません。
「チラッと見ただけで、興味のない人にも即座に認識できる」という文の骨格は、すぐに読みとれるでしょう。
でも京大の英文の方は、一度や二度読んだくらいでは何のことかすぐわかりません。
そしてわかった気になっても、自然な日本語にはなかなかできません。各文の主語がどれで、どれとどれが並列(等位)で、何が何だかすぐにはわかりません。
だから問題を解く時間はたっぷりあるけれど、その分だけ京大の問題の方が難しいといえます。
そして知識としても、いつもお薦めしている『英文翻訳術』(ちくま学術文庫)などの知識が必要になってくるわけです。
東大の英文和訳にも、この本は必要ですが、京大の場合は「絶対必要」です。
文章をばさばさぶった切って、それを核文に還元して、それを日本語に置き換えて、それを自然な和文に再構成するという、一連の翻訳技術を学ぶことが、京大受験生には必要なのです。
これは、和文英訳でも同様です。
----------- 京大と東大は、全く違う ----------- 東大の英語2004は 【1】要約・センテンス補充 【2】テーマつき英作文・和文英訳 【3】リスニング 【4】整序問題・下線部和訳 【5】語法問題を含んだ総合問題 という多彩なパターンの出題です。
その一方で、京大英語は、和文英訳と英文和訳の2パターンの出題しかありません。
だから東大を受ける人と、京大を受ける人とでは、当然英語の勉強法が異なってきます。
たとえば東大英語では、問題数が多いですから、ドンドン問題を解いていくスピードが必要です。
様々な問題があるので、全体の三分の二くらいは、問題をパッと見て、パッと答えを書けるように勉強しておかなければ、高得点は狙えません。
じっくり考えて答えるより、センター英語のように、パッと見てパッと答えを見つけ出せるように、準備しておかねばなりません。
つまり東大受験生には、問題を解く反射神経を鍛えることが必要なわけです。
桐原書店の英頻(即戦ゼミ3)などが売れているのは、つまり、語法問題などの反射神経をチェックできるという理由からでしょう。(ただし以前にも書きましたが、私はこの本はお薦めしません)。
そして東大の場合は、10パターンくらい出題パターンがあるので、それぞれにそう言う反射神経を養う必要があります。これはかなり大変な話です。
しかしその反面、東大英語にも、楽な面があります。
というのも、選択肢を選んで記号を書くだけの問題がたくさんあるからです。
京大の英語だと、和文も英文も全部自分で書かねばなりません。
書いたモノがちゃんとした文章になっていなければ、点数はまるでもらえません。
Aの意味にも取れるしBの意味にも取れるような、玉虫色の答えを書いたら、0点になってしまいます。
もちろん語法間違いやつづり方の間違いがあれば、ドンドン減点されてしまいます。
だから逆に東大英語の出題形式は、英語を苦手としている人には有り難いことかも知れません。というのも選択肢を選ぶだけならば、とにかく何か書いておけば、まぐれでも点になる可能性があるからです。
そしてまた、10パターンも出題形式があるのですから、苦手なパターンの問題はパスして、その他の問題で合格に必要な最低点を取ろうという戦略だって、取ることができます。
たとえば語法問題や整序問題だけを山ほどやっておれば、30点くらいは楽に取れるでしょう。
或いは英作文の対策を十分にしておれば、英作文で点を上乗せできる可能性もあります。
合格するのに必要な点数は、理III以外なら、得点率で65%もあれば十分合格ですから、大問5問のウチ、一つはあきらめて適当に答えを書いておき、他の4問で勝負するという戦術を使うことができます。
京大の英語では、そう言うことはできません。何しろ出題形式は2パターンしかないのですから、どちらかを捨てるという戦略は、はじめっから取れません。
英文にじっくり取り組み、文章作成にじっくり取り組み、そして出題者の意図を読んで、求められる水準の答えをしっかり書かねばなりません。
京大英語の場合は、問題を解く反射神経より、文脈把握力や文章構成力を鍛えるほうが重要なのです。
もちろん制限時間があるのですから、京大受験生も、反射神経は必要ですが。
Pre >
東大の英語・京大の英語(1)
Next >
大学別・英語対策
コメントする