シグナリングと資金調達方法の決定

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 企業とその株価の関係には、

  • 1)企業の発行株数が増えると、株価は下がる。
  • 2)負債の増加は株価を高める。

というような傾向がある。

 

 そしてもっと複雑な有価証券(優先株や転換社債)の取引や、数種の証券の同時売買(自社株買い戻し資金の借入)では、発行される証券が自己資本に近ければ近いほど、株価を下げる効果がある。

 

 このようなパターンは考えてみれば不思議である。

 

 特に2)の「負債の増加は株価を高める」というのは「借金をたくさん背負うと倒産の危険性が高まる」という理解とはまるで逆である。

 

 これを説明するのが「シグナリング・モデル」である。

 

 まず企業内部にいる経営者は、その企業について外部にいる投資家より詳しい情報を持っている。

 

 つまりそこに「情報の非対称」、つまり片方は取引に大きな影響がある事情について詳しいが、もう一方はその事情について詳しくないという状態が存在しているわけである。

 

 情報の非対称があると、情報を持っていない側の者には、「詳しい情報を知りたい」「経営者の行動から情報を推測しよう」などというインセンティブが生じる。

 

 なぜなら本質的に「知らないコトは怖いコト」であるし、貴重な資源である金を投資しようと言うのだから、できるだけ正確な情報を得たいというのは、非常にもっともなコトである。

 

 そして投資家にそういうインセンティブが生じると、逆に情報を持っている経営者側にそれを利用したり操作しようというインセンティブも生じる。

 

 つまり経営者が、自分の行動がシグナルとなって投資家に影響を及ぼしていることに気づけば、それを利用して都合の良いメッセージなどでシグナルを操作しようとする場合も生じるわけである。


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経営者が借入金を増やせば株価が上がる

 たとえば経営者が企業の株価が高くなると得をし、企業が破産すると個人的にも損害を被るという場合を考える。

 

 つまり経営者がその企業の株主であったり、或いは株価に対して何らかのインセンティブ契約を結んでいて、株価が高くなると得をするというような場合である。

 

 逆に企業の経営が悪化するとその経営者は地位を失ったり、役得を失ったり、或いは経営手腕を低く判断されたりして利益を損なう。

 

 このような場合一般的に言って、借入によるファイナンスは危険を伴うはずである。

 

 負債水準が高くなれば高くなるほど、経営者は破産コストを負担せざるを得ない確率が高まる。

 

 だから、「経営者は負債水準を「安全な水準」に止めよう」と言うインセンティブを持つはずである。

 

 だがしかし実際には「借金しまくっている経営者」がいる。

 

 ダイエーの創業者のように、投資して投資して投資しまくっている経営者がいる。

 

 それはなぜかというと、経営者が「山ほど借金して投資しても、それ以上に儲かる」と思っているからである(と考えられる)。

 

 つまり一般論として、「たくさん収益が上がりそうなら負債を増やしても構わない」ということであり、逆に言うと「あんまり儲かりそうでないなら、負債は増やせない」ということである。

 

 これはギャンブルで言えば、「当たればでかい→大金をつぎ込める」 「当たっても雀の涙しか儲からない→大金をつぎ込めない」というパターンである。

 

 だから「一般論としては」、企業の収益の見通しが明るいならその企業は負債を増やすだろう。

 

 そして見通しが暗いなら、負債を増やそうとはしないだろう、、、と投資家は考える。

 

 そこで文頭の2)の「負債の増加は株価を高める」という現象が起こる。

 

 つまり収益の見通しがわからない場合、外部の投資家は企業の行動シグナルを、そう読むのである。

 

 そうすると1)の「株式発行増加は株価を下げる」というのは、投資家が「経営者は破産リスクを回避するために、エクイティ(自己資本:株式や転換社債)で資金調達(ファイナンス)をしようとしている」と判断し、「経営者はあまり良い収益見通しを持っていない」と思ってその企業の株式を売ろうとする→株価が下がる、、というふうな現象であると理解できる。

 

 つまり1)株式発行数が増える →経営者は将来の見通しを楽観していない、と投資家は見る →株価が下がる。

 

2)企業の借入金が増える →経営者は将来の収益を高く見積もっている、と投資家は見る →株価が上がる。

 

ということである。

 

 これはもちろん投資家がその企業の将来の収益を予想しにくい場合(情報の非対称)であり、また経営者が配当政策なども合わせてこのパターンを悪用して株価を操作しようとしていることもままある。

 

 だがしかしこのパターンは、エクイティで資金調達(ファイナンス)しようとしている企業にとっては、大きな問題である。

 

 特にベンチャービジネスなど、エクイティで資金調達しなければどうしようもない企業の場合は、とんでもない問題となる。

 

 そういうわけでエクイティでファイナンスを行おうという企業には「情報を洗いざらい公開せざるを得ない」ということになる。

 

 つまり「ディスクロージャー」の必要が生じるのである。

 

 日本の銀行にディスクロージャーを求めるのは、自己資本比率を上げるという問題とも無関係ではないだろう。

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