乗っ取り防衛によるリストラと経営者追い出し

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 1980年代の企業買収や企業乗っ取り合戦の陰の主役は、ジャンクボンド市場の創始者であるドレクセル・バーナム・ランバート証券のマイケル・ミルケンであった。

 

 ミルケンは1970年代末、それまで債券格付け会社によって「不確実で危険」だとされて売り出せずにいた、もう一つ業績の上がらない企業の発行するランクの低い債券(つまりジャンク・ボンド)を、通常の四五倍の手数料を取ることで自分の証券会社で売り出せるようにした。

 

 1980年代初めにはジャンクボンド市場は大市場に成長し、ジャンクボンドによるMBO(マネジメント・バイアウト:経営者による自社株買収)や、企業乗っ取りが盛んに行われた。

 

 だがしかし、あまりにもハイリスクなジャンクボンドの発行は、ついに破綻をきたし、ミルケンとドレクセル証券はインサイダー取引などの裁判を経て没落した。

 

 1980年代に始まった大規模な企業買収合戦や企業再編は、そうしてようやく沈静化したのであった。

 

 ミルケンとドレクセルによって引き起こされたジャンクボンド市場の加熱についての問題は別問題とするとしても、1980年代に起こった企業買収合戦や乗っ取り合戦は賛否両論の論争を引き起こした。

 

 その一つは借入によって自己資本比率を高めた企業が、負債の増加を埋め合わせるために大幅なリストラを行ったことである。

 

 レバレッジを高めた企業は、スタッフを削減して様々な事業展開を分割したりあきらめたりした。

 

 長年その企業で働いてきた高給従業員を解雇し、また新製品や新設備への投資も後回しにすることになった。

 

 アメリカ国内の熾烈な乗っ取り合戦の防衛にアメリカ企業が神経を使っている間に、他国の企業が勢力を大幅に伸ばすのではないかという危惧も起こり、その結果アメリカ企業の雇用力が落ちて失業が増えるのではないかという意見も出された。

 

 だが一方では旧態依然とした企業経営者を追い出し、企業の怠惰な空気を一掃する大きなチャンスであると捉えた者も多かった。

 

 と言うのも買収された企業は贅肉をはぎ取られスリムになったし、将来性は有望だが親会社の幹部がボンクラでいまいち利益が上がらなかった企業も独立して充分利益が上がるようになったから、その企業の株主は大きな配当を受け十二分に利益が出始めたからである。

 

 1980年代の大変動は、経済面において第二次世界大戦後ずっと世界一であり、巨大な国内市場を抱えているために大した努力もせずとも業績を上げられ努力を怠っていたアメリカ企業に、活を入れる大きな原動力となったのである。


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金融構造の国際比較

 アメリカ企業の負債額が増加したことで、アメリカ企業も他の主要国の企業と同様の金融パターンをとることになった。

 

 それ以前のアメリカ企業の金融構造は、株式発行による資金調達が主で自己資本比率が非常に高く、それが「健全である」とされていた。

 

 が、大規模な買収合戦や乗っ取りが横行するという事態になってそれが意外にも「アブない」のだとわかると、自己資本比率を下げ、借入金を増やす方向に金融構造をシフトしだした。

 

 だがしかし一方フランスやドイツや日本と言った他の先進国ではこの時期逆に負債を減らし、エクイティ(自己資本)による資金調達を増やすという方向で企業が金融構造をシフトさせていた。

 

 それというのも実はこれらの国々の企業はそれまで資金を「借りまくって」おり、1970年代半ばの日本など、有利子負債が自己資本の二倍もあるというとんでもない「借金漬け体質」であったからである。

 

 それが1980年代に流行した転換社債やワラント債などによる株式資本調達比率が高まり、トヨタなどはトヨタ銀行などと呼ばれるくらいにまで負債依存度を大きく下げ始めた。

 

 だがこれらの国々では「割り当て」と称する株式の売却が盛んで、企業は投機的に株式を売却しないような者に株式を売却したり、或いは関連企業がお互いに株式を持ち合いしたり、それをさらに国家が法律で後押ししたりしていたので、アメリカのような熾烈な敵対買収はおこらず、せいぜい円満な合併や買収にとどまった。

 

 果たして1980年代のこの大騒動は、一体何を示していたのだろうか? 少なくとも古典的な「企業の金融構造は企業価値に影響を及ぼさない」というモジリアーニ=ミラーの分析は、ここではあまり役に立たないことだけは確かである。

 

 エクイティが有利か借入が有利かという問題には、その国の税制も大きな要因として働く。

 

 株式の配当を利益の一部としてみなして課税する一方で、借入金の金利支払いを必要経費として非課税にすれば、企業にとってエクイティより借入の方が有利になる。

 

 だから日本では借入による資金調達が主になったという話もある。

 

 もちろん高度経済成長期の猛烈なインフレ下では、借入金で資本投資をしないと減価償却がえらいことになったという事情もあった。

 

 これはたとえば100万円機械を手持ち資金で買って十年後、新しい機械を買う段になると新しい機械はもう300万円になっている。

 

このとき減価償却で貯めた資金は百万しかないから、その金ではもう新しい機械は買えないという現実がそこにあった。

 

 だがこの問題は地域差が大きく、税制も規制も様々であるためにハッキリした結論が出せる問題ではないかも知れない。

 

 だから次の項ではその問題を棚上げし、資本構造と経営者や株主や債権者の利害関係についてのみ、考えることとする。

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