内部労働市場の理論

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 アダムスミス以来の労働市場理論は、短期雇用や季節労働者の雇用を説明するにはもっともな理論であった。

 

 というのも短期的雇用や季節労働というのは、基本的に「大したトレーニングを必要としない」からだ。

 

 だから新しい労働者を雇うのもクビにするのも、雇い主からみるとさして問題はなかった。

 

 そこには常に労働者を雇いたい雇い主と、明日の仕事を探している労働者が無数におり、だからこそそういう労働市場理論が成立し十分説得力を持ったのだ。

 

 だが現代のように企業活動に「企業特殊なスキル」や「産業独特の能力」が必要な時代になると、そういうわけにもいかない。

 

 というのも外部的な労働市場の他に企業内部にも別の労働市場、すなわち「内部労働市場」が成立するからだ。

 

 組織内の「内部労働市場の研究は比較的最近に始まったものである。

 

長期雇用と限られたエントリーポート

 

 内部労働市場が生じる原因であり、内部労働市場が生じる組織の特徴の第一は「長期雇用」である。

 

 現代企業の多くは長期雇用を前提とする。

 

というのも現代の企業活動は単純労働ではなく、熟練したスキルを必要としているからである。

 

 そしてまた企業はその企業や狭い産業内でしか役に立たないような「企業特殊的な能力」を必要としている。

 

 どこの業界でも通用するようなスキルや能力なら、金と時間さえ与えれば従業員に習得させるのにさほど困難はない。

 

 ところが特定の企業や産業内でしか通用しないようなスキルや技術は、長期的な雇用が約束されないなら従業員に習得させることが難しい。

 

 だから長期雇用を暗黙の契約として、企業や組織は従業員に対し「企業特殊的な人的資産形成」つまり、その企業内では役立つが他の産業ではなんの役にも立たないような技術の習得を勧めることになるわけである。

 

 そして労使ともに長期雇用を前提とするなら企業は限られた資源を将来のために比較的安心して社員の教育に振り向けることができるようになる。

 

 一方従業員側もそういう企業特殊的技能の修得に熱心になる。


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仕事に付与された給与(+わずかな業績給)

 企業は長期雇用を前提として新入社員を雇い、それを下位業務に就けることによってその能力を見極める。

 

 これを「スクリーニング」と呼ぶが、そうしてその働き具合によって有能な社員を昇進させ、昇給させるわけである。

 

 内部労働市場が生じる組織では、仕事はヒエラルキー構造になっている場合が多く、給与や報酬は仕事(役職)に付与されたものとなっているのである。

 

 これまで何度も述べたように、業績に対してそれ相応の報酬を与えるというインセンティブ報酬方式は、ハッキリと業績が測定できる分野においてのみ効果を上げる。

 

そうでない場合は効果が薄い。

 

 たとえばセールスマンだけの販社であれば、売り上げに対して歩合を支払うというような業績給方式も成り立つが、モノを仕入れてきて売るだけの商売でやっていけるほど現代は甘くない。

 

 そしてまた均等報酬原理から、売り上げに直接関係しないが企業や組織の将来の評判に影響を及ぼすような仕事にも十分なインセンティブを与え続けなければならない。

 

 が、こうした場合には役職や仕事と切り離して業績給のみで内部労働市場を動かすことは難しい。

 

 そこで高い判断能力が必要な仕事には高い報酬を、低責任の仕事には低報酬を割り当て、それに適した人材配置を行うという方法で業績給の代わりとするわけである。

 

 この方式は、つまらない仕事だからといって怠ける人間には昇格も昇給もさせないというやり方であり、だからこそ従業員のモラルハザードを減らし勤労インセンティブを高めることができる。

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