効率性賃金理論の他の側面ならびに応用

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 これまでに述べてきた効率性賃金モデルでは、あるプリンシパルとあるエージェント間の問題として捉えられていて、どのようにしてエージェントが選ばれ、どのようにして彼の生涯キャリアの中でインセンティブがどのように変遷していくか、、などと言った問題は触れられていない。

 

だからここでいくつかの例を挙げる。

 

アダム・スミスによる商人の名誉についての考察

 

 アダム・スミスは商取引の頻度が商人のインセンティブに対して果たす役割について強調している。

 

 彼の考察は、諸国間に見られるN(再雇用回数)の違いがどのように各国商人の行動とインセンティブとに影響するかに焦点を当てている。

 

 アダムスミスによると当時の一番の商業国はオランダであり、しかもオランダ国民が一番義理堅く契約を守ると観察している。

 

 それは紳士たるイングランド人も、スコットランド人と比べれば約束を守る方だ。

 

 しかし、オランダ人には到底かなわない。

 

 だがしかし、オランダ人とて田舎の方に住んでいるオランダ人はそうでもない。

 

 だからつまりこれは、「商取引の量」に依存しているのだ。

 

商取引が毎日のように行われている場所では、他人を欺いて得る利益よりそれによって後々受ける損害の方がはるかに大きいからなのだ。

 

 商取引では「だまされるかも知れない」と相手に警戒されると、安く手にはいるはずのモノすら高く買わねばならない。

 

 そういうわけで他人(あるいは他国民)と滅多にまじわることのない人間や地方の人は、ずるく立ち回って得られる利益が大きいので約束を守らず、毎日のように他人と取引を行っている人間や地方の人は義理堅くなる。

 

そういうインセンティブがあるのだ。


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マグレブ商人と評判

 ある人の「評判」も、背任行為を抑止するインセンティブである。

 

 だがしかし、背任を行ってクビになってもすぐに他の仕事にありつけるなら、「評判」も大したインセンティブにはならない。

 

 だからエージェントを雇うプリンシパルの数が少ない場合、評判は背任行為を抑止する強烈なインセンティブになりうる。

 

 なぜならエージェントが背任行為を行ったという評判は、すぐにその数少ないプリンシパル間に知れ渡り、そして二度と雇ってもらえなくなるからだ。

 

 11世紀において西地中海では貿易商人間で見られるエージェントに対する態度に変化が生じた。

 

 取引量が少なく、信頼できる通信手段が少なかった9~10世紀には、商人は自前で商品を運送していた。

 

なぜならば遠隔地の全く知らない商人と取り引きするには、そうしないと品物をどうされるやわかったものでは無かったからである。

 

 だから11世紀になって地中海沿岸に商人のネットワークができると、品物の運搬はエージェントに任せることができるようになった。

 

 運搬を担当するエージェントは、誠実に行動しなければすぐに悪い評判が立ち、仕事を有利な条件で請け負うことが難しくなったからである。

 

 こうして仕事をエージェントに任せるときのコストが低減した。

 

企業内のキャリア・パス

 

 ここでの単純な効率性賃金モデルに欠けている要素のひとつに、企業内のキャリア・パスがある。

 

 つまり今回のモデルでは将来の賃金が約束されている場合の背任抑止インセンティブを除外していたからである。

 

 長く勤めるとジワジワと給料が上昇する、、、という賃金体系をもった組織では、それ自体が強いインセンティブになる。

 

 こういった組織では、最初に監視しやすい仕事から従業員は仕事を割り振られ、そして経験年数が増えるに従って監視しにくい職務や任務を割り当てられることになる。

 

 これは以前にも「スクリーニング」や「保証金」として捉えた現象の別面である。

 

(だが監視しにくい業務に就くと、そう言った人間でもやっぱりモラルハザードなり背任行為・役得は避けられないということでしょうね)

 

製品の評判とブランド名

 

 この効率性賃金のモデルは、企業の評判やブランドといった問題をも説明できる。

 

 今年の新機種の売れ行きはその機種の性能だけに依存するわけではない。

 

去年の、そして一昨年の、或いはそれを買って使っている知り合いや隣人や友人の評判を下に、今年の新製品が買われているわけである。

 

 こういった場合、企業は利潤確保のために品質を劣化させるわけにはいかない。

 

 そういったことを行えば、将来の評判を落とし将来の商品の売り上げに大きく響く。

 

 だから企業は常に誠実に行動しなければならないというインセンティブがそこに与えられるのだ。

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