限定合理性に対する契約上の対応

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現実の人間は全知全能ではなく、完全に先を見通せるわけではない。

 

どんな複雑な問題でも、正確にコストもかけずに即座に解けるわけでもなく、またお互いに自由で完璧な意志の疎通を図ることもできない。

 

「人間は限定的にしか合理的でなく、またそれを自覚している」 従って人間は限られた範囲内でのみ、最善を尽くそうとし、合理的であろうとする。

 

これを限定合理性という。

 

限定合理性の下では、契約はコンプリート(完備)でない。

 

それは(1)予測不可能な状況がよく発生すること。

 

(2)事態が予測できたとしても、その発生確率が低いように思えたので、それに関しての取り決めが行われないこと。

 

(予測計算の不確かさ)(3)契約を書くために用いられる言語そのものが不確かなこと。

 

等の原因によるものである。

 

だから完備契約なんて結べるはずもないのだ。

 

 しかし、それでは困る。

 

 人間一人でできることなど、たかが知れている。

 

 何とか他人と協力して、より利益の上がる仕事を成し遂げたい。

 

 そういうわけだから、それに対する対応が考えられている。

 

まず最初に考えられるのが、状況変化が起るより前に契約が終了するような契約を結ぶことである。

 

 契約期間が短ければ短いほど、状況の変化が起る確率は小さくなる。

 

 だから、限定合理性の下でも契約は完備契約に近づく。

 

 このような短期間の契約を「スポット市場契約」と呼ぶ。

 

別の可能性としては「関係的契約」としての契約を結ぶということが考えられる。

 

 関係的契約とは、完備契約のように予め将来に起ることを予想してそれに対する対応を前もって決めておくのではなく、「何かが起ったら関係者で改めて対応を協議する」という契約である。

 

一般によくみられる雇用関係も、従業員を指図する権限を雇用主に与え、従業員は一定の範囲内で上司の指示に従うという形の「関係的契約」なのである。

 

関係的契約では、大まかな仕事の流れに関する期待やルールは取り決めているが、完備契約のように細かな規定とそれに対する対応を取り決めているわけではない。

 

「部門長の指示に従い、○○とそれに付随する業務を行う」てな感じで契約を結ぶ。

 

 しかし関係的契約においても労使は任務の割り当てや給与に関して再交渉する必要も認められていないから、理不尽な雇用主の要求に対する従業員の防衛手段は最終的には「辞職」であり、業務命令拒否を行う労働者に対する雇い主の防衛手段は「解雇」である。

 

「辞職」や「解雇」は労使間で再契約を結ぶ契約費用を節約していると考えられる。

 

一般的に言っても、無理の無いある程度の完備性を備えた契約でも、契約締結にはかなりのコストがかかる。

 

だから契約が不可能な状況になると、現実の契約は関係的契約にならざるを得ない。

 

「関係的契約」によって「関係に構造が与えられ」、→「共通の期待が設定され」、→「意思決定や費用・便益の分配に用いられるメカニズムが確立さ れる」。

 

行動よりもむしろプロセスや手続きに関して合意するというパターンは、会社の定款にも反映されている。

 

 定款は、取締役や役員の選任手続き、さらに非常に包括的な表現で株主に諮ること無く行使できる役員の権限や意思決定などの範囲は決められているが、それ以上の記述はない。

 

日本の憲法も同様のものであると考えることができる。


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暗黙の契約(インプリシット・コントラクツ)

不完備な契約に対して重要な補完機能を果たすのは、当事者が相互関係の上で抱く、漠然とはしているが共有されているはずの「期待」である。

 

この共有された「期待」は、その重要性から「暗黙の契約」と命名された。

 

実際に期待が共有され、共通の理解が得られている限り、暗黙の契約は限定された合理性を有効に利用し、契約コストを節約する強力な手段となりうる。

 

この点に関して言えば、企業文化と呼ばれる「共有された価値観、思考法、物事の処理手順に対する期待」は、暗黙の契約の重要な一側面になっている。

 

暗黙の契約には、法的拘束力はほとんど無い。

 

文書による説明も、口頭による説明もない。

 

従ってこの契約の実行は、別のメカニズムに頼ることになる。
■契約の不完備性がもたらす効果。
不完備で不完全な契約は、利己的な行動をうまくコントロールできない場合がある。

 

 このため利己的な行動によって不利益を被る可能性があると、合意すらできないかもしれない(これを不完全なコミットメントと呼ぶ)。

 

また達成可能な協力の範囲が限定され、非効率性を生み出すかもしれない。

 

さてコミットメントの実現は、著しい価値をもたらす可能性がある。

 

それは「背水の陣」的効果である。

 

1066年征服王ウイリアムは、自軍を乗せてきた船を焼き払い、唯一の退路を断つことで部下を戦闘へとコミットさせた。

 

 またアップル社は自社の工場をマック生産に特化することによって、内外にマッキントッシュ路線を堅持することを示して生産と販売にコミットした。

 

コミットメントには二つの問題がある。

 

その一つは契約当事者の片方が約束に違反するということである。

 

合意通りの行動が実行されないという形で約束違反が生じる場合、当然ながら効率の面で影響がでる。

 

 がしかし、「約束違反が高い確率で起るかも知れない」「裏切られるかもしれない」という懸念があるだけでも、契約は結ばれにくくなるし、もちろん効率的でもなくなってしまう。

 

コミットメントに伴う二番目の問題は、状況次第では契約後のある時点において、再契約した方が双方ともに都合が良くなることがあることである。

 

この場合、最初に交わした契約の履行は効率的ではなくなる。

 

例えば社員持ち株制度は社員の士気を高め、企業の業績を上げることにインセンティブを与えるが、企業の業績が上がりきってしまったら、社員へのインセンティブはなくなり当初の契約は社員を業務にコミットさせなくなってしまうだろうから。

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