線型契約の下での総所得

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 雇用主が中規模以上の企業の場合、従業員一人が担えるリスク負担能力は、雇用主と比べて取るに足らないくらい小さい。

 

 このためインセンティブの問題を考えないとすれば、従業員の給与に変動をもたらす全てのリスク発生源に対して保険を掛け、雇用主が金銭的リスクを全部負担するのが最適であろう。

 

 だがしかし、報酬中の全てのリスクを取り除いてしまうと、努力水準を高めて利潤を増大させるインセンティブが、同時に従業員から失われてしまう。

 

 だから問題は(何度も書くが)リスク・シェアリングとインセンティブを与えバランスなのである。

 

 さてここで、努力水準eと雇用主から与えられたインセンティブ契約の規準となるパラメータα(固定給)、β(インセンティブ強度)、γを考えてみる。

 

 つまりベクトル(e、α、β、γ)によって、従業員の報酬が決定されるようなインセンティブ契約を考えるわけである。

 

 このとき従業員の確実同値額は、「報酬の期待値」-「努力に要する費用」-「リスク・プレミアム」となり、ゴチャゴチャ計算して簡素化すると、 α+βe-C(e)-(1/2)rβ^2・Var(x+γy)となる。

 

 そしてまた、同時に雇用主の確実同値額は、「粗利潤の期待値」-「報酬支払い額の期待値」、つまり P(e)-(α+βe)である。

 

 そういうわけで、従業員と雇用主の式を足しあわすと「線型契約下における総所得」が計算でき、それはつまりP(e)-C(e)-(1/2)rβ^2・Var(x+γy)ということになる。


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努力インセンティブと、契約の実現可能性

 さて今、従業員の確実同値額は、α+βe-C(e)-(1/2)rβ^2・Var(x+γy)であった。

 

 これはつまり従業員にとって収入が大きく変動すると困る。

 

 だから、リスク・プレミアム分だけ安くていいから給料の基幹部分を固定給にして、後はインセンティブ契約(つまり一部歩合給)で給与をもらおうという仕組みである。

 

 だからもし従業員に上手くインセンティブを与えて業績を伸ばそうと雇用主が考えるなら、従業員の努力水準eが、他のパラメータとどういう関係にあるか、確かめておかねばならない。

 

 努力しても見返りがないなら、インセンティブ契約にはならないから、βe-C(e)≧0は明らかであろう。

 

がそれだけでは、適当なインセンティブ・プレッシャーを与えているかどうかはわからない。

 

 そういうわけでこの式をeの関数であると見なしてeで微分する。

 

 するとβ-C’(e)となる。

 

 努力水準をe上げるのは、最初はたやすいかも知れないが、どんどん難しくなっていく。

 

だから努力の費用C(e)はeが大きくなるにつれ増加していく。

 

 それに対してβが小さくなったり大きくなったりすると一様なインセンティブを与えることができなくなる。

 

 だから、βの値は常に、β-C’(e)=0を満たすように決めなければならない。

 

 これを「インセンティブ制約式」と呼び、実現可能なインセンティブ雇用契約は、必ずこの式を満たさねばならないのである。

 

(つづく)今週の・・・ 計算式はややこしいけど、要するに常に努力するための費用の増分とインセンティブ強度βが常に等しくなるように設定しなければ、効率的な結果は得られないと言うことです。

 

 たとえばものすごく努力しなければ結果がでないような場合、インセンティブ強度βはかなり大きくないと誰も努力しない。

 

 これは激烈な競争をしているIT業界でストック・オプションが多用される一つの原因である。

 

 しかし少しの努力で結果がでるような場合、βを大きくすると企業は利益を従業員に還元しすぎてしまう。

 

、、、ということです。

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