弟のせい?

弟のせい?

弟のせい?

ヒダカ君から漏れ聞く話によると、
彼の弟が東大に合格して依頼、
家庭における彼の立場は、
少し微妙なものになっていたらしい。

 

それまでは周囲の者も、
京大に入ったヒダカ君の事を結構ホメてくれ、
それなりに高く評価してくれていた。

 

だがそれが弟が東大に合格した途端、
彼らは急に掌を返すように弟を持ち上げ始め、
替わりにあろうことか数学科に通う優秀なヒダカ君の事を、
平気で低く扱うようになったと言う。

 

だから彼はそれを不満に思って時折ブツブツ言っていた。

 

もちろん実際彼の待遇がそんなに悪かったかどうかはわからないが、
しかし広島の方から来たヤツに聞くと、
確かにそういう風に極端に他人を持ち上げたり、
手のひらを返してケナしたりというような事がかの地では結構あると言う。

 

「広島の人間がみんなそんな人間だと、
思わないでください」とそいつは言っていたが、
田舎では東大というのは別格らしいから、
ヒダカ君が本当にそんな扱いを受けて、
劣等感を感じていた可能性はある。

 

そしてまたヒダカ君が長男であったと言うのも、
さらに問題を大きくした。

 

もちろんボクは彼の弟には一度も会ったこともないし、
そいつが一体どんな人間であるかはまるでわからないのだけれど、
彼はもしかすると以前から弟に対し、
何か劣等感を抱いていたんじゃないかとも思った。

 

と言うのもボクにも弟がいて、
弟の存在が何か嫌であったからである。

 

弟という生き物はたいてい兄より、
「明るく人なつっこく甘え上手」なのである。

 

それはボクの子供の頃の友人のヤグチ君の弟でも、
うちの弟でも、バイト先で知り合ったヤツの弟でもそうらしく、
親に平気で甘え親からお金やモノを引き出すのがうまい。

 

うちの母親もボクには平気で、
「大学へ行く金は自分で稼げと言うたやろ!」と突き放す癖に、
弟には平気でお金を出した。

 

そして弟が大学に入ってからも、
毎月何万かの小遣いを弟にだけはやっていた。

 

ヒダカ君の家庭でももしかするとそういう勾配があったのかも知れない。

 

世の中にはそういう無神経な事を平気でする親が確かにいる。

 

だからヒダカ君が柄にもなく「ディスコでナンパ」という話に飛びついたのも、
そしてそれに傍から見ると異常なくらいな真剣さを見せたのも、
実はそういった背景から逃れたいという、
願望があったのではないかとボクは思うのである。

 

彼は両親や周囲の者が弟ベッタリになって、
自分の存在を軽んじることに、
えらくプライドが傷つけられた。

 

そして誰でもいいから自分を理解して、
支えてくれるような女の子を必要としていたのだ。

 

それによって彼の心は癒され、
彼のプライドは再構築される。

 

そしてまた不愛想で口下手な自分自身に対しても劣等感を持ち、
そしてこのナンパをキッカケに、
自分も弟のように明るくみなから好かれるような、
存在になりたいといった願望も、
実は心の奥底にあったのだろうとボクは推測する。

 

もちろんこういう欲望は、
ボク自身にもあるからそう言うのだが、
どちらにせよ彼はその「ディスコでナンパ」という作戦に賭けていた。

 

そしてそれはいきなり成功するかに思われた。

 

それは傍目から見れば育ちの良く、
笑顔でつまらない事でも楽しそうに話すアカイさんの功績であった。

 

だがプライドの高いヒダカ君にしてみれば、
それでも「自分の魅力『が』多分にあった」と、
ウソでも何でも誇張して信じ込みたかったのだろう。

 

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しかしそれはやはり彼のプライドを致命的に傷つけ、
粉々にする結果となった。

 

と言うのもやはりディスコで知り合った女の子の、
目当てはアカイさんであって、
決して彼ではなかったからである。

 

だから最終的にその可愛い方の女の子と、
アカイさんがカップルになり、
そして彼はこの聖戦に敗れてしまった。

 

その間の詳細についてはよくわからないが、
しかしそれは「自分はアカイにひけを取らない。

 

いや自分の方が優れているはずだ」という、
根拠のない自信や思い込みを持っていた、
ヒダカ君のプライドを大きく傷つけた。

 

アカイさんのような「ひょうひょうとした軽さ」は、
女の子の苦手なボクらの目にはおうおうにして、
「中身のない浮ついた軽薄さ」に映ることがよくある。

 

しかしそれは育ちのいい人間の周囲を楽しくさせる貴重な能力であって、
生まれた時から身近に妹やそんな感じの女性がいたりすると、
自然とそういう能力に長ける。

 

ボクがバイト先で知り合った中にも、
お菓子やシャンプーなどの話題で女の子と話し、
そしてそれでちゃんと盛り上がれるヤツがいたのだが、
ボクが不思議に思ってその訳を尋ねてみると、
彼は「だっていつもうちで妹とそんな話してるし」と答えた。

 

また自分の周囲にいる女の子のデータを、
楽しそうに集める趣味のヤツがいて、
彼に育った環境を尋ねてみると、
こちらは姉がいて「お姉ちゃん子」だったという。

 

女兄弟を持たないボクからすれば羨ましいことではあるが、
「そら女の子と平気で話せて当たり前やなぁ!」と言う感じである。

 

どうも子供の頃身近に同世代の女性がいる環境で育ったかどうかは、
その後の対女性行動に大きく影響するものらしい。

 

そしてまた女の子もそれに正直に反応する。

 

だから女の子たちはそんなアカイさんの笑顔に正直に笑顔を返し、
そして残念ながら妹を持たないヒダカ君は一人蚊帳の外に置かれ、
かえって侘しさを味わう羽目になったらしかった。

 

NEXT:たった三十分で彼岸に渡ってしまったヒダカ

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