アカイさんのこと

大学の同輩に、アカイさんという人がいた。

 

彼は工学部の建築学科の学生だったが、色白で背丈もそこそこ高く、ひょうひょうとした雰囲気を持つ明るい人間だった。

 

有名人で言えば久米宏さんとか、ユースケ・サンタマリアさんのような、雰囲気を持った男性を想像してもらうと、何となくわかってもらえるかと思う。

 

「ぐふっぐふっぐふっ」という風に、夜中でも陽気に笑う人だった。

 

その頃のボクはまだ人を育ちの良し悪しという観点から、見ていなかったので気づかなかった。

 

だがこうして今彼のことを思い出してみると、確かに彼はその細身の身体にしてはよくものを食べ、よくしゃべりよく笑っていた。

 

だから彼もきっと育ちのよい人間だったに違いない。

 

アカイさんもよくボクの部屋へやってきて、麻雀をする一人だったのだが、しかし彼はどちらかと言えば麻雀より、みんなと話をする方が好きだった。

 

だからメンツが足りていれば必ず、「オレはいい」と言って決して卓には入ろうとせず、その替わり部屋の隅に座をとって、みんなと何だかんだと世間話をする事が多かった。

 

そんなアカイさんがある時、妙な事を言い出した。

 

それは確か二回生の後期試験が終わった頃だったと思う。

 

ボクらがいつものように部屋で麻雀して遊んでいると、彼は何かすごく良い事を思いついたという顔つきでやって来て、そして目一杯もったいをつけた後こう言ったのだ。

 

「なあなあなあ誰か一緒にディスコへ行ってナンパせえへんか?
大学にはあんまりかわいいコがおらんから、いっちょ河原町でかわいいコ見つけにいこーぜーっ!」。

 

その頃はまだジョン・トラボルタの「サタデーナイト・フィーバー」や、「グリース」といったディスコ映画ブームの余韻がだいぶ残っていて、ディスコはそういう風な男女の出会いの場だと考えられていたのである。

 

だからナンパするなら絶対ディスコ!という雰囲気がまだあって、学生はみんな一度はそういうところへ行ってみたいと考えていた。

 

その証拠にコンパや高校の同窓会などの二次会では、必ず誰かが「ディスコへ行こう」と言い出したし、ボクもつきあいで何度かディスコへは行ったことがあった。

 


だがしかしボクにはどうも、その良さがわからなかった。

 

音はうるさいし、タバコかなにかの煙はたちこめているし。

 

考えてみればそれは、ボクの好きなパチンコ屋でも全く同じなのだが、そこで二時間か三時間、身体を揺すってそれで何千円というのは、かなりもったいない事のように思っていた。

 

そしてまたそういうお金を払い、そういう場所に集まる人間は、踊る以外の別の目的がある人間ばかりなんだろうな、などとも思っていた。

 

もちろん今ではそういう場所へ行ったり、行って身体を揺すったりしながら、仲間と遊んだり話したりすること自体に楽しみがあるのだ、とわかるようになった。

 

だが当時のボクはそういう場所へ遊びに行く女の子に対しても、ちょっとした偏見を持っていた。

 

だからボクはアカイさんの度重なる提案にも乗らなかったのだが、彼はいかにも不満そうに

 

「なんでーっ!?どーげんも彼女おらんのやろ、それやったらエエやん。いっぺん行ってみよーなぁ」
と何度も強くボクを口説いた。

 

しかしボクが

 

「そんなこと言うたかてオレの好きなタイプの女の子は、ディスコになんかいてへんもん。
そんなんに何千円も使われへんわ!」

 

などと言って断ると、いかにも残念といった面持ちで

 

「そーかー、そんなに言うんやったらしゃーないなー」
と言ってようやく引き下がった。

 

アカイさんはどうも、どうしてもその作戦を実行に移したかったようであったが、自分一人でディスコに行くのはさすがに心もとないようで、ボクに断られた後もヨシザワ君やその他の仲間たちに次々と声をかけ、その作戦に参加するよう口説いた。

 

だが残念ながら、その話に乗ろうというヤツは現れなかった。

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