石橋を叩いて渡る堅実さ
石橋を叩いて渡る堅実さ
「それじゃあ、一体どうして貧乏人はガラクタばかり買ってしまうのだろう?」
ボクはしばらくそれを考えていた。そしてある仮説を立ててみた。貧乏人は、モノの値打ちがよくわからないらしい。貧乏人にはそういうセンスがないのだ。そういう才能がないのだ、と。
「じゃあどうして、貧乏人にはそういうセンスがないのだろう?」 そう考えた時に真先に思い浮かんだのは、ヤグチ君のお母さんのことであった。
前述したが、ヤグチ君のお母さんはとても堅実な人だった。石橋を叩いて叩いて渡り、そして次の機会には別のもっといい石橋をみつけ、叩いてみるような人だった。
彼女は昔ボクらが子供であった頃、学校であったことや友達のこと、そしてヤグチ君自身に直接尋ねるだけでいいようなことでさえ、必ずボクやボクの弟から話を聞こうとした。ボクらの話す内容がヤグチ君たちと同じでも、それでもいろいろ聞こうとした。
そんな彼女の行為をウチの母親は
「あの人は口がうまいから、ウチのこと聞かれても何も言うんやないで!」
などと言ってひどく警戒していたが、しかしそうやって何かをしっかり知ろうとする彼女の態度は、今考えても正しくマトモな人間の正しい態度であったように思う。
ボクは何かを勉強する時には必ず違う著者の本何冊か読み、そしてそれを同時に見比べながら自分なりのノートや教科書を作っていくという作業をよくするのだが、ヤグチ君のお母さんも昔から何かそれに似たやり方で、自分の興味のあることや知らねばならないことをよく知ろうとしていたようであった。
彼女はボクが大学を辞めようと考え、そういう話を電話でヤグチ君のお母さんと話している時にも、最初こそウチの母親の立場に立って怒っていたけれど、それでもボクがどんな状態なのか、どういう風に考えているのか積極的に知ろうとしてくれていたし、ボクが母親の事や経済状態について話すと、理解を示してくれた。
本当かどうかは良くわからないが、O型の性格の一つと言えば、ああそうかと理解してもらえる方もいるかも知れない。ボクはモノを他人に習うのがとても苦手だが、O型の人は(特に妹や弟タイプの人は)本などを読むより、人間から直接情報をもらおうとするのが好きらしい。
用心深いし、見様によってはケチだと感じることもあるが、食事や着る物など、生活を支える重要な部分についてはちゃんと気を使う。自分一人では大したことができないと自覚しているのか、それとも他人と一緒に楽しいことをするのが大好きなのかは分からないが、友人や知り合いとのつきあいには熱心で、失敗談やら冗談やら、時にはちょっと危ない話でも話したり聞いたりするのが好き。そうしてそういう事などをするためには、なけなしの金でも平気ではたく。そんな感じの人間を想像すると、何となくよくわかる。
もちろん世の中のO型の人間が全てそういう性格だと言うわけではなく、O型の中の良くできた一つのタイプとしてそういう人間がいるということであって、またO型でなくてもそんな感じのする人間もいる。
ヤグチ君によると、彼のお母さんは決して良い環境で育ったわけではないという。だが「少ない収入でいかに最良の暮らしをするか」ということは、しっかり祖母から学んだらしい。学んだことを忠実に実行できるのも、ちゃんとした人間の優れたところである。だからこそ、彼女の家にはガラクタが少なかったのだろう、と思う。
だがしかし、それではヤグチ君のお母さんのように情報を集め、知り合いに話を聞きまくってジックリ物を見定めて買い物をすれば、誰でも必ずいい買い物ができるかと言えば、答えはおそらくノーであろう。というのも誰だって大きな買い物をしたり進路を決めたり、あるいは結婚でもしようとする時にはしっかり情報を集め、そして慎重にモノを選んでいるはずだからである。
しかしボクがガラクタを買わないようにしようと考えながら、結局ガラクタを買ってしまうように、貧乏人というのはそうやって慎重に・よく見て・熟慮して・選んで手に入れたはずでも、どういうわけか、ガラクタばかりつかんでしまうのである。
「掘り出しモノだ」と言われて買った家具や土地がどうしようもないシロモノであったり、「花形企業だ」といわれて就職したら、十年もたたないうちに斜陽会社。「いい人だ」と言われて結婚しても夫は酒好きでバクチ好きで家には一銭もお金を入れなかったり、妻は妻で宗教狂いだったり浪費家だったり。そういう不幸な出来事が、世の中では毎日毎晩のように繰り返されている。だから情報を集め対象をじっくり吟味したぐらいで、貧乏人がガラクタ
やハズレをつかまなくなるなんて事は、とうてい考えられないのである。
もしかしたら貧乏人はそういうセンスに欠けていると言うより、ガラクタやハズレが好きなのかも知れない。ガラクタやハズレが好きだから、ガラクタやハズレばかりひくのかも知れない。そう考えたとき、ボクはアダルトビデオを借りるときによくやる失敗のことを思い出した。