とんでもなかったウチの食事
とんでもなかったウチの食事
ウチの母親は無茶苦茶だった。いい加減で、無茶苦茶なことを平気でやっていた。
たとえばウチの母親は朝食を作らなかった。だからボクら子供らは、勝手にトーストを焼いて、ベタベタとマーガリンという油脂を塗りたくって食うだけだった。飲み物は牛乳だけで、あとは何もなし。タマゴもハムもソーセージもツナも、何にもなし。昼食は家にいる場合はたいてい、インスタントラーメン一袋だけ。
弁当なら白飯に卵焼き二切れと、そしてシシトウが二本だけ。夕食も、皿の上に小さなトリの空揚げ三片だけとか、小さなハンバーグが一つだけ転がっているなんていうことがしょっちゅうだった。
他はやっぱりなんにもなし。小皿も小鉢もない、カスみたいな食事だった。食事と言うよりただのエサだった。
もしこういう献立を見て何にも感ずるところがないなら、何の知識もなく食事を用意していることは明らかである。「十分じゃん」と思ったなら、急いで本屋に走り、最新の栄養学の本を片っ端から読みあさるべきである。なぜならこんな食事では、成長期の男の子の身体も健康も支えることなどできないからである。
繊維質もないしビタミンやミネラルも全然足りていない、何より大事なタンパク質も全く足りない。ハッキリ言ってひどい内容である。
子供と言うのは身体は小さくとも、肉体を作りながら生きている。つまり子供の食事は大人の食事とは違うのである。大人は毎日の活動エネルギー分だけ食えばよいが、子供は毎日の活動エネルギー分に加えて、成長する栄養分を食う。大型犬の子犬が自分の身体分くらい食うのと同様に、人間の子供も大人と同じかそれ以上にたくさん食うのである。
子供は胃袋がまだ小さくて一度にたくさんは食べられない。だから、かわりに何回にも分けてメシを食う。十時のおやつ・三時のおやつというのは、実は食事なのである。
だが子供は食事が足りないからと言って、勝手にモノを食うわけにいかない。食おうと思っても、食うモノが家になければ食えない。だから親は、子供の食事の回数にも量にも質にも気を使わなければならないのだが、しかし世間のお母さんやお父さんに、どれだけそういう知識があるだろう?
たとえば、自分が一日最低何グラムのタンパク質を取らねばならないか、知っている人間がどのくらいいるだろうか。子供に一日最低、何グラムのタンパク質が必要か、知っている人がどのくらいいるだろうか。今朝の朝食で何グラムのタンパク質をとったか言える人は? 卵一個で取れるタンパク質は何グラムか言える人は? たぶん半分も答えられない人が多いだろう。
この章の最初に、免疫を担うグロブリンやリゾチームはタンパク質でできているという話を書き、タンパク質が不足するとたった一週間で免疫力が半分以下に落ちてしまうという話を紹介したが、せめてこれくらいの知識を持たないと、食事を組み立てようがないのである。
目安としては、成人のタンパク質必要量の目安は、体重一キロ当たり約一グラム前後必要で、体重が六〇キロならば六〇グラム、四十五キロならば四十五グラムほど。また子供に必要なタンパク質も大人と同じ四十五グラムから六〇グラム。特に朝食では最低十五グラムぐらい取らないと、だんだん朝起きられなくなる。
ところが先ほど紹介したウチの朝食では、タンパク質は九グラムくらいしかとれない。御飯・麺類・カップーメンでも、一食分にはタンパク質は九グラムしか含まれていない。
これでは全然足りないし、アミノ酸スコア(質)も悪い。しかも成人病の素地となる脂肪分は必要量の数倍。
ところが卵一個で取れるタンパク質は約六グラムだから、ここに卵を一つ足すだけで最低ラインの一食十五グラムをクリアできる。納豆や干物やハムやソーセージを加えるだけで、ちょうどいい食事になる。だから伝統的な和食の朝食には納豆や干物が出てくるし、イングリッシュ・ブレックファーストには、タマゴやオムレツやソーセージなどが必ずついているわけである。
だがウチの母親はなんと「計算が狂う」「勝手に食うな」と言って、そういうモノを一切食わせなかった。これでは最小限のタンパク質も取れないし、ビタミン・ミネラルも足りないのが明白である。野菜も少ないし、繊維質もないし、脂肪は過剰だし、カロリーだけあるだけで他には何にも良いところがない。
こんな食事を毎日続けていれば神経は持たないし、病気ばかりして、しかも治りにくくなる。案の定ウチの母親は寝込むことが多く、弟は二十歳前にもう歯がボロボロだった。
ボクも高校三年頃にはゼンソク気味でゼイゼイ言っていたし、顔色も良くなかった。
ところがそんなひどい食事を作っている母には、全くそういう自覚がなかった。そしてあろうことか、全部「先祖の霊のせいや」とか「父親がアカンのや」などと言って、憤慨していた。
ウチは母親と父親は折り合いが悪くて別居していたから、家庭を創っているのは母親しかいない。だからはっきり言ってこの母以外には原因はないのであるが、しかし母にはなんと、そんな自覚も意識すらもなかったのだ。