貧乏人の顔色は、いつも悪い
ボクはしょっちゅう風邪をひく。年がら年中風邪をひく。ここ何十年というもの、薬を飲まなかった月はない。薬を買わなかった月も、たぶんない。
今は飲んでも飲まなくても同じなのでバッファリンくらいしか飲まないが、高校を出て住み込みで新聞を配っていた頃には、毎週のように風邪をひき毎日のように風邪薬を飲んでいた。
あまりに風邪ばかり引くので、一度血液検査をして調べてもらったことがあったが、リウマチ反応の数値が少し高かった。だからこれは単なる風邪ではなく、リウマチ熱なのかもしれない。
リウマチ熱というのは風邪と良く似た症状だが、高熱が出てのどが腫れた後に発疹や発熱や関節炎が出る病気である。進行すると心炎・心臓弁膜症などに発展するが、溶連菌感染が発端の膠原病(自己免疫異常)だろうと言うことくらいしかよくわかっていない。
だから検査結果を見た医者も、その時「必ず毎日野菜を食べなさい。種類はなんでもいいから」と言っただけで、特に通院しろとか薬を飲めとかは言わなかった。リウマチ熱だったら薬と言ったって、対処療法のアスピリンとペニシリンとステロイドしか選択肢はないので、食事に気をつけて静養しなさいという意味あいのアドバイスだったのだろう。
しかし当時のボクには、そんな事はわからなかった。無理をすれば身体は動かせるし、どちらかと言えば、身体を動かしたほうが熱はあっても気分がよかったくらいだったのだ。
だからボクは大した事もないのだろうとタカをくくり、新聞配達を続けていた。当時のボクはまだ若く、回復力も旺盛だったから、そんな無茶もできたのだ。
そしてまた当時は、そうやってガムシャラに働くことが、幸福への近道のように考えられていた時代だった。
当時のテレビドラマでは、家族や子供や友人のために頑張り過ぎてブッ倒れるような「善人」を好意的に描いていたし、新聞や雑誌でも、数多くの成功者が貧乏をしながらも寝る間も惜しんで働いていたと報じていた。
貧乏人でも我慢して頑張れば、きっと報われるという安易なおとぎ話が世間では通用していたし、誰でも頑張れば裕福になれ、幸せになれると大の大人が大まじめで語っていたのだ。
だから年に五日ほどしか休みがない仕事でも、ボクは頑張れた。休みはないが、働くことによってボクは、生まれて初めて誰に気兼ねする事なく朝晩好きなだけメシが食えるようになったし、生まれて初めて好きなだけ本が買えるようになったのだ。
だから「たかが風邪」ぐらいで、そんな恵まれた環境をボクが手放すはずもなかった。二三日休もうと言う考えすら、不思議なことに起こらなかったのだ。
そうしてボクは一年後、何とかやっと念願の京大に合格し京都へやって来たのだが、そこでボクが目にしたのは、たかが風邪くらいで大騒ぎして寝込む裕福な友人・アマノ君の姿であった。
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