レントと効率性記事一覧

 ここまでの議論は「資産効果が無い状況」という前提であった。 つまり様々な取引に加わる人間は十分にお金を持っていて、どんな便益や損害もお金で換算でき、補償したり弁償したりできるものとして考えてきた。「資産効果がない」「資産効果の不存在」の定義をもう少し詳しく書くと、1)当事者のそれぞれが、受け取る便益と負担する費用やリスクを何らかの金額に換算して評価することができ、2)この評価額がそれぞれの持つ資...

 「コースの定理」は「資産効果が存在しない」という前提で成立するものである。 だから、そのまま現実社会で適用できるモノではない。 だがしかしこれは物理学で言う「質点」つまり「質量はあるが大きさはない点」の概念のように、モデルを簡略化して把握することができる利点がある。 物理学でこういう概念をまず採用するのは、大きさがないという条件下では大きさからくる様々な要素を捨象(細かいことはバサッと考えないこ...

 従業員が職務に対してまじめに働かないと成り立たないような組織を考える。 たとえば賄賂の誘惑に耐えなければならない警察署、たとえば顧客第一に考えるセールスマンに依存しなければならない営業部、たとえば仕事先の商品を万引きして帰らない警備員に依存しなければならない警備会社。 こういう組織で従業員に規律を守らせようとするには、「規律を守らねばクビにするという脅し」と「転職した場合より高い給与を支払う」と...

「高賃金が誠実な行動を導く」という考えは昔から存在した。 というのも1765年頃、インドの東インド会社に雇われていたイギリス人官吏に腐敗行為が多かった。 それは報酬が低く設定され過ぎていて、しかも本国からも遠いからバレにくく、背任行為から得る利益がはるかに大きかったからである、と考えられた。 そして11世紀のマグレブ商人たちによっても同様の高報酬システムと、背任行為が見つかった集団全員を商売から外...

 これまでに述べてきた効率性賃金モデルでは、あるプリンシパルとあるエージェント間の問題として捉えられていて、どのようにしてエージェントが選ばれ、どのようにして彼の生涯キャリアの中でインセンティブがどのように変遷していくか、、などと言った問題は触れられていない。だからここでいくつかの例を挙げる。アダム・スミスによる商人の名誉についての考察 アダム・スミスは商取引の頻度が商人のインセンティブに対して果...

 商取引の発展には、ビジネスに関わる人々の間で、互いにかわした合意が履行されることに対する「信頼関係」が成立する必要がある。 この契約遵守を保証する最も重要なメカニズムとして「評判」がある。ゲームの理論を用いて「評判」を少し検討する。取引のタイプと意志決定 多くの経済的取引においては、予期せぬ出来事がしばしば起こる。 そのような場合において意志決定がどのように行われるかを分類してみると、1)スポッ...

信頼ゲーム(再掲){表1}  (意志決定者)信頼に応える、または、信頼を裏切る。 (委託者)   委託する、または、委託しない。取引の繰り返しとナッシュ均衡 意志決定者(取引に応じる者、あるいは注文を受けて仕事などを代行する者)が、委託者の信頼に応じるかそれとも裏切るか、と言ったことは、意志決定者が裏切りによって得られる利益V+Gの大きさによって相当影響を受けるだろうと考えられる。 たとえばモラル...

「評判」の限界と「企業文化」- 取引や契約が何度も繰り返し行われるような場合、信頼を裏切った場合の利益より信頼を得る場合の便益の方が大きくなる。 このような場合、取引相手の信頼を失うような行動は自らの大切な「評判」を落とすことになり、そのために多くの利益を失う。 だから企業も個人も評判を気にし、可能な限り(少なくともハッキリ見えてしまう面だけでも)誠実であろうとする。 だがもし契約に違反し、意志決...

評判システムか裁判か-評判なしに法律制度を使って取引をうまく行おうという考えもあるかも知れない。 だがしかしそれは面倒で時間もコストもかかるし、それだけの資源を裁判に振り向けても、判事や陪審員には何が問題になっているかすら理解されない場合も多く、不確実である。 政治的配慮や収賄によって参考人がウソを言うやもしれず、殆どそれは役に立たない。 だからこそ企業や組織はこれまで、・行動規範の設定・契約履行...

 経済学には「レントrent」や「準レントquasi-rent」と言う、よくわかったようなわからないような概念がある。 レントとはすなわち、労働者が特定の仕事を引き受けたり、企業がある市場に参入したりする場合の誘因(インセンティブ)となる「上乗せ利益分」のことだ。 たとえばある労働者が今勤めている職場を辞めて他の企業で働く場合にもらえる報酬をw^とすれば、 w-w^が、現在の仕事の「レント」という...

 ある財やサービスの実際に売れる価格がpの時、それを作って売り出す場合のレントは工場のラインから製造工程の構築から、そういった最初の投資が必要で固定費用が大きくなる。 ところがすでにそういう初期投資を終えてしまった後でのレント(すなわち準レント)は、固定費用の何割かはもうすでに償却され、残りもサンク・コスト(すなわち生産を続けようが生産を止めようが支払わねばならないコスト)になっているので、それに...

 組織内でインフルエンス活動、つまり自分や自分たちに有利な資源配分をさせるように権限者に働きかけるような活動を行い、それに成功すると、活動を行った者は需要供給バランスによる均衡配分より余分に多くの配分を得ることができる。 たとえば一時期の地方公務員の給与は毎年上がり、いつの間にか国家公務員より何割も収入が上になるようなことになった。 それは毎年のように税収が伸び分配する原資があったために、労働市場...

 効率性賃金、すなわち有能な人材を組織に引き留めるために、均衡賃金より高い賃金を支払うようなことが行われると、今度は組織内に「レント差」が生じることになる。 というのも同期に入社した社員であっても、社員が受ける訓練の内容によっては将来の報酬水準が大きく異なってしまうということが起こるのだ。 たとえば同じく有能な二人の社員AさんとBさんがいたとする。 で、Aさんはアメリカの大学のビジネス・スクールに...

 インフルエンス活動とは一種の「選挙キャンペーン」である。 利害関係者は自らの事情を熱弁を奮いながら、権限者に陳情するのである。 これを制限し、レント・シーキングに費やされる時間と資源を限定するために、レント分配にかかわる決定は一度で終わりにするということがよく行われる。 つまり決定が行われた後はそれに関するインフルエンス活動は終了せねばならないという事で、審議済みとされるわけである。 そしてまた...